12話 ページ16
あ横浜から離れる手筈を整え始めた。家具などはすべて売ってしまうことにした。大した金額にならないことなんて知っていたが、どうしても棄てることができなかった。
退職届を書いた。社長にこんなものを渡すなんて苦しくて、書きながらいくつも涙が落ちた。インクが滲み、紙は何枚も駄目になった。
もうあと二週間。フェージャが、新しい住まいを用意してくれているらしく、つまりそれまでの探偵社だった。ただ、残業の分をこなしてくれる太宰さんのおかげで、最近の探偵社での心労はほとんどなくなっていた。
あぁ、もう少し早くに、心中できていたらね。
そんなことを、つぶやいた。画面に向き合い文字を打っていた彼が、私を振り向く。
「なんだって?」
「いいえ、なんでも」
「いやしかし、どうもかなしそうな顔をするね、君は」
「本当になんともないんですよ。ありがとう、太宰さん」
「ううん。それならばいいけれど」
納得しがたい表情をしつつも、彼はそうだ、と言って話を変えた。
相づちを打ちながら、やっぱり彼はさすがだと思う。
もうすぐ私、遠くへ行くよ。嘘をついてごめんなさい、許してね。
最近は、探偵社にいるだけで胸が凍ったようにはりつめて、それはとても切ないもので、私、ずっと苦しいの。
彼が愉快に話を話すかたわら、私が笑ってうなずいていることを、誉めてほしいくらい。
残りの探偵社での時間が、とても名残惜しいんだ。
探偵社にいれば身をすり減らすような日々で、それで今さら惜しんだってもうなんにもならないのに。
探偵社を出で、帰路にたつ。別れ道で太宰さんに手を振って、それから背を向けて歩めば、だんだん空を月が昇ってくるのだった。私はそれをゆっくり仰いでいた。
その月の昇るように、最後の時間は、刻一刻と迫っていた。
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うずのしゅげ(プロフ) - 猫さん» ありがとうございます笑笑 そうですね、本当に彼女には報われてほしいですね☺️☺️ ドスくんが楽器を弾いて、夢主ちゃんが歌ってとかっていう穏やかで幸せな日々がありそうで妄想の翼が広がりますね!!笑 (7月17日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
猫 - ズビッズビッっべ、別に泣いてないですけど、夢主ちゃんは幸せであって欲しいですねズビッ (7月8日 10時) (レス) @page24 id: a46c77cf46 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - ラいむさん» ラいむ様!!長い間、本当にお世話になりましたー−!!!こちらこそ、今までありがとうございました。受験勉強がんばってきます!何度も何度もしつこいようですが、本当に、ありがとうございました! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 眠夢@低(無)浮上さん» わー−!!うれしいですー!そうですねー、もうこの作品を書くことがないんだと思うと、本当に私も寂しい気持ちです、、わざわざコメントありがとうございました!次作でもよろしくおねがいしますー−! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 黒猫さん» 上から読み返してくださったんですか......!! いやもうまじで、うれしいです!!黒猫様にはお世話になりました、今まで本当に、ありがとうございました!!受験勉強も、がんばってきます! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年8月11日 22時