4章 砕けた月夜 ページ5
「太宰、さん......?」
街頭で照らされたそこには、いつもの砂色の外套を羽織らない格好の太宰さんがいた。
「びしょ濡れだけれど、傘、忘れたの?」
「はい」
「あはは、萩原さんってそういうとこあるよね」
高らかに笑いながら彼は私に傘を差しだしてくれる。大丈夫ですよなんて遠慮する隙もあたえず、彼は歩みだした。
「萩原さんスーツ姿だけど......今まで仕事してたとか言わないよね」
その問いになんとも言えず黙っていると、彼はわーお、まじ?と、苦笑した。
「太宰さんこそ、なぜこんな時間に?」
「今日は素敵な入水日和〜」
言われて、納得して、あぁ、とつぶやく。何気なくふっと横を向いて、そこには轟音をたてて流れる川があった。太宰さんもそんな私の視線に気づいてか、その川を向く。
「こんなところに飛び込んだら、すぐに死んでしまいそうだね」
「そうですね」
そこで私たちの間を、深い沈黙がよぎった。たしかに雨音が酷くて、そんな静かさなんてあるわけないけれど、そこになにかがぽとんと落とされたような、おたがいの気持ちが一度深くに沈んだような、そんな感覚があった。
それを経てから私は一度歩みを止めて、口を開いた
「ねぇ太宰さん」
「うん?」
「心中しませんか?」
彼の目を見上げる。途中で立ち止まったことによって傘に入りきれなかった私に雨が強く打ちつけて顔が濡れる。
彼は大きく目を見開いて、その瞳をわずかに揺らがせながら、私を見つめていた。そしてまるで咳き込むときのように意識をもどして、笑んだ。
「いいよ。よく見ればこんなにも美人な君と死ねるのなら、本望だ」
彼が、ビニール傘を手放す。横に吹く風にゆらめいてそれは遠くまで飛んだ。
彼と見つめ合う。その瞳は黒い。
そして私も、彼と同じ黒い瞳でほほえんでいる。
死にたいとか死にたくないとか、好きとか嫌いとか逃げたいとか幸せになりたいとか、なんだかそういう話でもない。今夜が酷い嵐だから死ぬ、ただそれだけだ。だからこの死には、なんの意味もない。
遺す言葉とすれば、ごめんなさい、それにつきた。お母さんも、お父さんも、フェージャにも、探偵社にも、アパートの大家さんにも、モンゴメリさんにも、うずまきの人たちにも、その一言でいい。長々と最期の言葉なんてもうめんどうくさい。
私は目の前の彼を向く。
「ありがとう。太宰さん」
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うずのしゅげ(プロフ) - 猫さん» ありがとうございます笑笑 そうですね、本当に彼女には報われてほしいですね☺️☺️ ドスくんが楽器を弾いて、夢主ちゃんが歌ってとかっていう穏やかで幸せな日々がありそうで妄想の翼が広がりますね!!笑 (7月17日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
猫 - ズビッズビッっべ、別に泣いてないですけど、夢主ちゃんは幸せであって欲しいですねズビッ (7月8日 10時) (レス) @page24 id: a46c77cf46 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - ラいむさん» ラいむ様!!長い間、本当にお世話になりましたー−!!!こちらこそ、今までありがとうございました。受験勉強がんばってきます!何度も何度もしつこいようですが、本当に、ありがとうございました! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 眠夢@低(無)浮上さん» わー−!!うれしいですー!そうですねー、もうこの作品を書くことがないんだと思うと、本当に私も寂しい気持ちです、、わざわざコメントありがとうございました!次作でもよろしくおねがいしますー−! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
吹原思木(プロフ) - 黒猫さん» 上から読み返してくださったんですか......!! いやもうまじで、うれしいです!!黒猫様にはお世話になりました、今まで本当に、ありがとうございました!!受験勉強も、がんばってきます! (2022年10月23日 21時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年8月11日 22時