第12話 内緒の特訓 2 ページ25
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「っ、はぁっ、はっ、はっ、はぁっ…」
すっかり日も暮れ、藍色に染まる町の中。人気の少ない道を1人の少女は走っていた。
「はぁ、はあっ、くっ……」
しかし、そのスピードはのろのろと遅い。とてもではないが全国大会に出場するチームの選手だとは思えない。彼女がどれだけ長い時間走り続けているかの証拠でもあった。
そのうち彼女の足は鉛でもつけられているかのように重くなり、地面を引きずり、やがて止まってしまう。ぽたぽたと地面に染みができた。
「まだ、まだ頑張れる……絶対、優勝するんだ……っ！」
千鳥はそう小さく口を動かすと、重い足を再び前へ蹴り出す。また静かな町の中に、地面を蹴る音と荒い息がゆっくりと鳴り出した。
「……ったく、見てらんねえぜ」
そんな少女を街角の隅から見守る影が２つ。そのうち1人がため息をついて少女の前に現れようとするも、もう片方の手が、それを制止した。
「…兄貴？」
「大丈夫、千鳥に任せよう。」
「任せるっつったって、あんな無茶な練習してちゃ…」
「……きっと、無茶じゃないのさ、彼女にとっては。」
士郎はそう言うと遠く千鳥を見つめた。
彼女は聡明だ。白恋のチームで個人個人にあった練習メニューを導き出し、フィジカルケアも万全だ。そんな彼女だからこそ、無理をすれば体を壊し、余計にチームに迷惑がかかることを知っているだろう。けれど、つい最近自分の体力を見誤ったのか彼女は体を壊してしまった。そんな今だからこそ、ことさら体を壊すほどの無茶はしないだろう。
「今は信じよう、千鳥を。」
「……。」
士郎はまっすぐ、千鳥を見据えている。その視線にこもった熱を見て、アツヤは何も言えなくなった。2人はくるりと家路につく。走り続ける少女を残して。
吹雪兄弟が先に帰り、千鳥は隠れて練習を続ける。そんな日々が続いた。
そうしてやがて、東京へと赴く日がやってくる。
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
