第10話 姫と妖精 2 ページ21
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「そんな緊張せえへんでええやん。ほら、気軽に姫、って呼んでみ！ひめ！」
そんな千鳥の様子を緊張ととったなえは千鳥の肩を掴んで自分の正面に向かせると、ぱっと笑った。その笑顔に千鳥はますます赤くなる。
「う、うぅ……ひ、ひめさま……」
そうして、千鳥は小さな声でなえをそう呼んだ。小さく縮こまってぷるぷる震え、これまた小さな声で自分を呼んだ千鳥の姿に、なえはきゅーんとときめく。
「は〜っ！キミ、かわええなあっ！」
なえは再びぎゅーっと千鳥を抱き寄せた。千鳥はもう嬉しさとドキドキで目を回している。
「おいコラ！千鳥にベタベタすんなよ！」
すると、アツヤがべりっと2人を引き剥がした。なえは一瞬不満げにしたものの、「へー、キミの名前は千鳥って言うんやな！よろしくな、千鳥！」と千鳥に笑いかけた。
「う、うん。よろしくね…姫さま…！」
なえのことを『姫さま』と呼ぶ千鳥はとても嬉しそうだ。そして、それがアツヤにはどうにも気にくわないらしい。アツヤの顔はどんどん不機嫌になっていった。
「ちゅーわけで、みんなも気軽にウチのこと姫って呼んでな！よろしゅう！目指せ、全国制覇や！お〜っ！」
なえはくるりと白恋イレブンの方を向くと、またマイペースに満面の笑みを浮かべ、空に拳を突き上げた。白恋イレブンは戸惑いながら「お、おー」と声を重ねる。
「声が小さいで、もう一回！お〜〜っ！」
「お、お〜！」
なえは何度も白恋イレブンに呼びかける。疲れたような、苛立ったような顔をしているアツヤなど気にも留めない。
そんな中、未だ胸を押さえて鼓動を整えている千鳥にそっと染岡が近づいた。
「…おい、大丈夫か？」
「な、なんとか……」
「白兎屋のこと、お前はどう思う？」
「！」
染岡の冷静な声音に、千鳥は未だ少しはやる胸を押さえながら、なえをじっと見つめた。
「姫さまなら、もしかしたらこのチームが成長するきっかけになってくれるかもしれません。」
「ああ。…入部テストであいつを見たとき、衝撃が走った…。きっとあいつなら、今の白恋に必要な殻を破れる起爆剤になるはずだ。」
染岡はぴょんぴょん跳ねながら「お〜っ！」と声を上げるなえを鋭い眼差しで見つめた。千鳥も、胸のドキドキを堪えながら、期待のこもった瞳でなえを見る。
そんな2人の視線に気付かないなえは、軽やかに笑っていたのだった。
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月18日 0時
