第196話 どう見えてる 3 ページ31
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千鳥は顔を真っ赤にして小さく震えていたのだ。彼女は両手で顔を覆う。支えを失った松葉杖がカランと音を立てて地面に倒れた。
「…ち、近いです。せんぱい。」
その小さな声を聞いた鬼道はドクンと心臓が強く脈打った。慣れてないのか。それとも自分を男性として見てくれているのか。
いや、そんな理由なんてどうでもよくなる程、目の前で震える少女が愛くるしく見えたのだ。
「千鳥…。」
バクンバクンと心臓が高鳴る。千鳥は顔を覆っていて自分の行動は見えていない。そっと千鳥の頬に手を伸ばした──そのときだった。
「鬼道さ〜ん！」
そんな呑気な声で、洞面が廊下の奥から駆けてきた。鬼道は慌てて手を下ろし、千鳥はゆっくり両手を下げて、声のした方に視線を向ける。
「練習ノート、書庫から部室の方に移動させてたって！」
洞面はニコニコしながら鬼道にそう伝えた。
「あ、ああ。ならグラウンドに戻るか。」
「そ、そうですね。」
鬼道は千鳥の松葉杖を拾い上げ、千鳥に渡す。「あ、ありがとうございます」と言う千鳥の返事もつっかえている。
ギクシャクした2人の雰囲気に、洞面はもしや自分はやらかしてしまったのではないか、大切なシーンを邪魔したのではないかと冷や汗を流した。
「…洞面。」
ぽそりと小声で鬼道が洞面の名を呼ぶ。その迫力に、ああやっぱりそうだったかと洞面がビクリと肩を揺らしたときだった。
「ありがとう、助かった。」
聞こえた予想外の言葉に洞面は元から丸っこい目をさらに丸くした。自分は邪魔したのではなかったのか。
「あのままでは、オレは越えてはいけない一線をこんなに早く越えてしまうところだった。」
鬼道は自嘲気味に俯いて笑うと、ぼそりとそう言った。その言葉の意味はわからなかったが、とりあえず自分はナイスタイミングだったのだろう。洞面は自分を褒めてやることにした。
鬼道は分かっていた。あのとき彼女に触れてしまったら、もうただの『仲間』ではいられなくなること。いや、彼女のことだ、それでも自分と変わりなく接してくれるかもしれないが、関係性が変わってしまう可能性は大いにあった。
それに、聡い彼は知っている。まだ彼女の心の中は自分じゃない人間が多くを占めているということを。きっとここで一歩踏み出してもうまく行くはずがない。準備不足なのだ。
まだ時期でない。これからもっと、彼女に想われなくては。
そう決意すると、鬼道は千鳥と洞面と共にグラウンドへ戻っていった。
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いわき(プロフ) - 檸檬けーき。さん» 檸檬けーき。さん、コメントありがとうございます！とても嬉しいです！この小説はもう完結していますが、同じ主人公が出てくるアレス版の新作を書き始めましたので、良ければそちらもご覧ください(＊^^＊) (2019年10月18日 10時) (
レス) id: b59bbba1ca (このIDを非表示/違反報告)
檸檬けーき。(プロフ) - 面白いです！更新楽しみにしてます (2019年10月18日 5時) (レス) id: 31d6ef12c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いわき | 作成日時：2019年10月8日 0時
