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「Aさん、一緒に帰りませんか」
「あれ、今帰りですか？」
今日は残業があったから既に定時は過ぎているというのにロビーには折原さんが居た。ボスとの事があってなんとなくマイナス思考になってしまっていたので、彼と会うことができて少しほっとした自分がいた。
これで、ボスのことを考えなくて済むから。
それに折原さんは私と同じ世界の人間だからほっとする。近くにいても、誰も意義を唱えない。誰からも後ろ指をさされることも、言葉の針で刺されることもない。
「Aさんを待ってたんです。話したい事があって」
「話ですか？」
「うん。やっぱり、嘘つきたくなくて……でも、こんな気持ちになるの初めてだから、なんて言えばいいか分かんないんですけど」
恥ずかしそうに俯いてから、折原さんは以前ホテルに泊まった時、私に弁明していた時みたいに頬を赤らめた。
なんとなくこの先が分かったような気がして心臓が重たくなる。折原さんのことは好きだけど、でもそれは恋の感情じゃない。でもこの先彼が私が今想像していることをした時、私がそれを拒否して関係が崩れるのが怖いと思ってしまった。
だけどそれと同時に、ボスに抱いてしまった場違いな感情を忘れることができるかもしれない、という希望を見いだしてしまった自分がいた。私、最低だ。
「僕は、以前からAさんのことが────」
折原さんがそこまで言いかけたところで、不意に車のブレーキ音が聞こえて、ものすごいスピードで走ってきた黒塗りのリムジンが、私たちのすぐ目の前に停まった。
びっくりしてその場で硬直してその車を見ていると、中から見覚えのある人物が出てくる。私は思わず目を見開いて驚いた。
「し、志麻、さん……」
「よぉ、Aチャン」
いつものように私に挨拶した志麻さんが、降りてこちらの方に歩いてくる。何故か変に安堵してしまった自分がいた。
だけどそんな私とは反対に、怪訝そうな顔をした折原さん。彼は志麻さんを睨みつけると、低い声を出した。
「なんの用？」
「うちの弟が恋敵だって知って急いで駆けつけてきただけやけど」
えっ、弟？！
初耳衝撃の事実に困惑していると、そんな事には構いもせず志麻さんはひょいっと私の体を持ち上げて車の中に押し込んだ。
折原さんが何か言ってるのが見えるけど、心臓の音がうるさくて何も聞こえない。
「な、なんで、」
「そんなん、好きになった人を取られたくないって気持ちに理由なんている？」
そう言って微笑んだ彼は、本当に狡い人だ。
格差ジレンマ。-終わり-
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憧葛 - こんばんは、憧葛です！作品を読ませていただきました。いやもう本当にどれも神作ばかりで……素敵なお話をありがとうございました！これからも頑張ってください！ (2021年12月7日 18時) (
レス) @page38 id: e0ae3127c5 (このIDを非表示/違反報告)
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