160話 ページ10
「幼いながらもバトルについて自分の考えを持っていて、よく僕に話して聞かせてくれたりして、本当にバトルが好きな子だった……あの日までは」
最後の言葉と共にグラスを握る手に力をこめるカブの姿に、静かに話を聞いていた二人は彼の纏った空気が変わったことを悟った。
「あの日、僕は連勤明けで久しぶりにあの子に会いに行ったんだ。その日は天気も良かったし、僕はあの子を連れて散歩に出たんだ。散歩をしていると、あの子がポケモンバトルがしてみたいと言い出した。それはあの子からの初めての申し出だった」
カブの話に口を挟むことなく、二人は目の前の飲み物を飲むことも忘れて黙って彼の言葉の続きを待つ。
店内には、壁に掛けてあるアンティーク調の時計の針がカチコチと規則的な音をたて続け、正確に時を刻みつけている。
「僕は嬉しくて嬉しくて、僕のポケモン君をあの子に貸して近くの公園で簡単なバトルをした。A君は初めてポケモンの技を目の前で見てすこしびっくりしたんだろうね。少し見当違いな技を指示することが多かった。それでも、僕もあの子も確かに心からバトルを楽しんでいた」
顔を、目を伏せながらそう言うカブに、二人は静かに耳を傾けていた。
ポケモンが放つ技というのは、確かに物凄い威力をもつものである。
自分も初めてポケモンの放つ技を見た時は、驚きと感動に満ちていたものだ。
偶然にも、キバナとネズはそう同じことを心の中で思い出していた。
「しばらくバトルを楽しんだ後、僕とA君は家へと帰り僕も自宅へと戻ったんだ。またA君と楽しいバトルが出来たらいいな、なんて思いながらね。でも……その日が訪れることはなかった」
カブは己の声をワントーン落とし、そう言った。
「しばらくして、僕は当時のスタッフが持ってきたある雑誌の記事を見た。その記事には僕とA君の事が書かれていた」
「記事……ですか?」
思わず言葉をもらしたキバナの言葉に、カブは小さく頷いて見せた。
そして、再び口を開き言葉を紡ぎ出す。
「その記事を見て、僕の目に最初にうつったのは"カブの姪はバトルのセンスがない"という見出しだった」
「「ッ!?」」
カブの口から飛び出した完全なる誹謗の文言に、二人は揃って言葉を詰まらせた。
そんな二人の様子を知ってか知らずか、カブは淡々と言葉を紡ぐ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ポケットモンスター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
長月シキカ(プロフ) - ミサさん» コメントありがとうございます!! レスが遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。多くの作品から当作品を見つけていただけただけでも嬉しいのに、このようなコメントまでいただけて涙が出るほどに嬉しく思います^^ こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2022年3月29日 21時) (
レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
ミサ - 完結されて日にちが経ちますが、最近見つけたこの作品を読み出してとても面白くページを読み進める手が止まりませんでした。とても良い作品に出会えて嬉しいです。ありがとうございます。 (2022年3月25日 17時) (レス) id: 068b87fb6b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年10月24日 22時
