184話 ページ34
急にベンチから立ち上がり自分の前に立ったクダリは、私を見下ろしている。
ベンチ近くに設置されている街灯のぼんやりとした灯りがクダリを照らすが、光量が足りないのか彼の表情は薄暗いせいで上手く読み取ることが出来ない。
「A。今から僕とバトルしよう」
「は……?」
彼の突然の申し出に、素っ頓狂な声をもらしながら私は呆然と彼を見上げる。
相変わらず彼の顔は薄暗くて見えにくいが、かろうじて彼の口元が弧を描いていない事だけは分かった。
いったいクダリは何のつもりなんだ。
今までの私の話を聞いていなかったのだろうか、それとも嫌がらせのつもりか。
……いや、クダリに限ってそんなことはまずありえない。
十年も一緒に仕事をしているのだ、クダリという男がそんなことをする奴ではないことは私が一番よく知っているつもりだ。
それなら、何故?
彼の何を考えているのか全く分からず、ただただ呆然とするしか出来ない私にしびれを切らしたのか、クダリが私の手を取った。
「ほらっA」
「ちょっ、クダリっ!?」
私の手を優しく掴んだクダリは私をベンチから立ち上がらせ、公園の真ん中へと引っ張っていく。
クダリのその力は決して強すぎるわけではないが、彼の手を振り払うことの出来ない私はベンチに温かみを失った缶を置いて彼についていった。
公園の真ん中に移動すると、私とクダリはバトルが十分に出来る距離を取った。
バトルコートはないが、毎日バトルをしているクダリとバトルの知識を一通り詰め込んでいる私にとってはあってもなくても問題はない。
私に問題があるとしたら、何故、今、クダリとバトルをしなければならないのかというただ一点だけだ。
訳の分からない私の耳に、クダリの聞き馴染みの良い声が飛び込む。
「バトルは、ダブル。使うポケモンはお互い二体。どっちかが戦闘不能になったらバトルは終了、だよ」
「クダリっ! だから私はバトルなんてっ」
淡々とルール説明をするクダリにいつもより声を張り上げてそう訴える。
だが、私の声が聞こえているのか聞こえていないのか、クダリは黙って二つのモンスターボールを投げた。
見慣れた青い光が消え、クダリの前にはデンチュラとアイアントの姿を現した。
二体を見る限り、準備は万端のようだ。
「次、Aの番」
短く、されどはっきりとそう言うクダリに、もう、やるしかないのだと悟った私は腰のホルダーに手をかけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ポケットモンスター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
長月シキカ(プロフ) - ミサさん» コメントありがとうございます!! レスが遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。多くの作品から当作品を見つけていただけただけでも嬉しいのに、このようなコメントまでいただけて涙が出るほどに嬉しく思います^^ こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2022年3月29日 21時) (
レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
ミサ - 完結されて日にちが経ちますが、最近見つけたこの作品を読み出してとても面白くページを読み進める手が止まりませんでした。とても良い作品に出会えて嬉しいです。ありがとうございます。 (2022年3月25日 17時) (レス) id: 068b87fb6b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年10月24日 22時
