170話 ページ20
トレイに人数分のコップを乗せ戻ってきたネズさんが、無駄のない動きで私達の前にコップをそれぞれ置いていく。
立ちのぼる湯気と共に紅茶の甘く良い香りが鼻をくすぐり、私は思わずほぅと息をもらした。
自分で淹れるよりもずっと良い香りのする紅茶に、知らず知らずに緊張していた心が解れていくような気がした。
しばらく紅茶の香りを楽しみつつ、私は目の前のキバナさんをチラリと見やる。
彼の前に置かれたコーヒーにも手を付ける事無く、どういう訳かもじもじとしているキバナさんの姿に、私はふいに思った。
あれ、これ。私邪魔じゃない?
ネズさんに促されるままに席に着いたが、これ、完全に私が邪魔しているのではないか。
ジムリーダーであるキバナさんが、わざわざ同じジムリーダーであるネズさんの自宅に赴いたのだ。
きっと、何か大事な話でもするつもりだったのだろう。
それなら、私はいないほうがいいはずだ。
そう思い私は、すぐさま口を開いた。
「あの、お茶まで出して頂いたのにすみません。私、これで失礼しますね」
そう言って立ち上がろうとする私を、ネズさんとキバナさんが目を丸くしながらそれを引き止めた。
「いや、でも……私がいたらお邪魔でしょう?」
「え?」
「ど、どういうわけです?」
「へっ? どうもこうも。お二人はこれからジムリーダーとしてのなにか大事なお話があるんでしょう? でしたら、一般人の私はお邪魔でしょう」
ジムリーダーともなると、一般人には言えないような重要な話の一つや二つはある筈だ。
ただの鉄道員である私でさえもあるのだから、間違いはないだろう。
その思いからの発言だったのだが、目の前の二人は何故かなんともいえない表情を浮かべ私を見ている。
何かおかしな事を言っただろうか。
二人の表情の真意が分からず首を傾げるしか出来ない私に、ネズさんは深く息を吐いてから口を開いた。
「Aさん。こいつの目的は、貴方ですよ」
「わ、私ですか?」
「そう。……ったく、お前がグズグズしやがるからですよ。キバナ」
じろりとキバナさんに鋭い視線を送るネズさんに、キバナさんはバツの悪そうな表情をする。
だがその表情から一変、真剣な表情を私に向けた。
私から視線を外すことなくやおらと立ち上がったキバナさんは、深く深く頭を下げた。
目の前の男の突然の行動に、私は思わず片足を一歩後ろに移動させた。
この状況、昨日も見たな。
なんて場違いな事を思いながら、私は口を開いた。
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長月シキカ(プロフ) - ミサさん» コメントありがとうございます!! レスが遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。多くの作品から当作品を見つけていただけただけでも嬉しいのに、このようなコメントまでいただけて涙が出るほどに嬉しく思います^^ こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2022年3月29日 21時) (
レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
ミサ - 完結されて日にちが経ちますが、最近見つけたこの作品を読み出してとても面白くページを読み進める手が止まりませんでした。とても良い作品に出会えて嬉しいです。ありがとうございます。 (2022年3月25日 17時) (レス) id: 068b87fb6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年10月24日 22時
