169話 ページ19
大きな体を縮ませるように座っている男の姿に、私は自分の両目が大きく見開いたのを自覚した。
目の前の男――キバナさんは私の姿をその目に映すとガタッと勢いよく立ち上がる。
「Aさんっ!」
「キバナさん、昨日ぶりで」
頭を下げ挨拶をしかけた私の言葉は、最後まで口から吐き出されることはなかった。
何故なら、私の横を凄い勢いで通り過ぎたネズさんがキバナさんの腰を思いっきりどついたからだ。
ボゴゥッと物凄い音と彼の青白くなった顔色と悶えるような悶えるような表情から見るに、よほど痛かったのだろう。
「すいません。ちょっとこの馬鹿、お借りします」
「え、あぁ、はい」
「イデデデッ!! 折れるッ」
「ノイジーですね。いいから黙ってついてきやがりなさい」
人一人分程離れてはいるが、私の耳にミシミシと骨が軋むような音が聞こえる気がする。
いやいや、まさかなと、私は先ほどの音を気のせいだと思い込むことにした。
「おいキバナこの野郎。わざわざ俺がお前の為に時間を作ってやったというのに、なに遅刻してやがるんですか?」
「いや、それは本当に悪かったって! 出掛けに仕事が舞い込んできちまって……」
「……チィッ。仕事ならしょうがないですね。チィッ!」
「二度も舌打ちをしなくてもいいんじゃねぇの? オレさまだって傷つくんだぜ」
「お前がこの程度で傷つくタマですか」
リビングの隅の方で何やらひそひそ話してはいるようだが、流石に内容までは聞き取れない。
ネズさんはもう一度キバナさんをどつくと、蹲る彼を放り私の方へと歩み寄った。
「すみませんAさん。お待たせしました」
「い、いえ。……大丈夫なんです? 彼」
いまだに唸りながら蹲るキバナさんを見やりながら、私はネズさんにそう訊ねた。
見た感じ、もろに入ったような気がするんだが。
「あぁ、いいんですよ。アレはヤワな鍛え方はしてませんでしょうし」
「グゥッ、鍛えてはいるが、お前のは効くんだっての」
いてて、とどつかれた脇腹を擦りながら戻ってくるキバナさんだったが、ネズさんは鼻で笑うだけだった。
それからネズさんは、私とキバナさんを椅子に座るよう促した。
促されるままに椅子に座った私の前に、キバナさんも同じように椅子に座る。
私達が座ったのを確認したネズさんは私達に飲み物のリクエストを聞くと、奥の方へと向かった。
なら手伝おうと腰を上げかけたが、ネズさんにやんわりと制されてしまった為、私は再び腰を下ろした。
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長月シキカ(プロフ) - ミサさん» コメントありがとうございます!! レスが遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。多くの作品から当作品を見つけていただけただけでも嬉しいのに、このようなコメントまでいただけて涙が出るほどに嬉しく思います^^ こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2022年3月29日 21時) (
レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
ミサ - 完結されて日にちが経ちますが、最近見つけたこの作品を読み出してとても面白くページを読み進める手が止まりませんでした。とても良い作品に出会えて嬉しいです。ありがとうございます。 (2022年3月25日 17時) (レス) id: 068b87fb6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年10月24日 22時
