108話 ページ8
「出来ましたよね?」
「デ、デキマシタ……」
私の圧が通じたのか、クダリはいつも以上の片言でそう答えた。
彼の出した答えに満足した私は「よろしい」と言葉を返す。
クダリは渋々と自分のポケットからモンスターボールを取り出すと、それを使ってポケモンたちをボールへと戻した。
どんだけ書類業務が嫌なんだ、と思うが、まぁ普段からジッとしている事より体を動かす方が好きなクダリらしいといえばクダリらしい。
「クダリ、いつまでしょぼくれているおつもりですか?」
「だって……いくらやっても終わらないんだもん」
まるで子供の様にむーっとするクダリに、私はしょうがないなぁという思い口を開いた。
「書類なら私も手伝いますから。それなら終わるでしょう?」
「えっ? いいの?」
「乗りかかった船ですからね……ほら、貴方はこのギアステのトップなんですから、しゃんとなさい」
いつまでもトップが沈んだ顔をしていては、他の者に示しがつかない。
そういう思いからそう伝えると、私の言葉に何か思うことがあったのか自分の頬を両手でパシンッと叩いた。
見る限り、気合を入れているのだろうか。
「よしっ! 僕、頑張る!」
「おや、いい心構えですね。男前がさらに男前になったじゃないですか」
私はいつもの軽口のつもりでそう言うのだが、何故かクダリからの反応がない。
いつもなら何かしらの反応をするはずなのだが。
いったいどうしたのか、と声をかけようとするがその前にクダリがバッと両手を上げ声を張り上げた。
「僕、頑張る! 先、戻るからっ!」
「え? ちょっ、クダリっ!?」
そう言いクダリはバタバタと勢いよく部屋を飛び出していき、私はそんな彼の背を見送ることしか出来なかった。
クダリの慌ただしい足音が少しずつ遠ざかっていくのを聞きながら、私はぽつりとこぼす。
「もしかして、照れたのか?」
思わずそうこぼすが、いや、まさかな、と私は今浮かんだ考えを頭を振ることで打ち消した。
何故なら、クダリは普段からバトルトレインに乗った女性のチャレンジャーや他の女性のお客様からあからさまなアピールを受けているのに、なんの反応も見せない男だからだ。
そんな男が、私の言葉なんかで照れるわけがないか。
そう自己解決し、私は遅れながらも古い資料室から退出するのだった。
そんな私だが、私よりも早くに退出したクダリが、仮眠から起きてきたノボリに顔が真っ赤であると指摘されている事など、知るよしもないのだ。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
