106話 ページ6
新人の教育係ということもあり、私の周りには新人たちがひっきりなしにやって来る。
クラウド先輩も私と同じ教育係なのだが、彼は色々と任されている立場の人間であるため、新人教育にだけ目を向けることが出来ないため、必然的に私にお鉢が回ってくるのだ。
何とか一日の業務を捌き終えた私は、凝り固まった肩をゴキリと鳴らす。
ようやっと帰れる、と私はデスク周りを片付けているとバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。
「灰ボス! チョット来テイタダケマセンカッ」
息の上がった男――シンゲンさんが私に声をかけてきた。
彼の様子から相当慌てているようだ。
「シンゲンさん、いつも言ってますが"灰ボス"というのは止めていただけませんか。私はただの鉄道員なんですから」
「イヤ、灰ボスハ灰ボスデス。アナタ意外二黒ボスト白ボスノ相手ハ出来ません」
真面目な顔をしてきっぱりとそう言うシンゲンさんに、私は微かに痛むような気がする頭を押さえる。
ノボリとクダリとは同期であるから、サブウェイマスターになったばかりの二人を支えていた時期もあるため、他の鉄道員に比べたらそりゃ多少の心得はある。
だからなのか、ここ数年で入社した者の中には私の事を"灰ボス"と呼ぶ者が一定数いる。
シンゲンさんも、そのうちの一人だ。
「それで、いったいどうされたんです?」
「ソウデシタッ! 実ハ白ボスが……」
彼がいうには、クダリの奴が終わらない書類業務から逃げ出したということらしい。
いくら探しても見つからないし、ライブキャスターの電源をオフにしているのか連絡もつかないとのことだ。
まったく、世話が焼ける奴である。
「黒ボスはどうしたんですか?」
「黒ボスハ、三徹目デ今ハ仮眠中デス」
「それは起こすのは忍びないですね……分かりました。私が探してきますから、貴方は仕事が残っているのなら仕事に戻ってください」
やれやれと思いながら私がそう言うと、シンゲンさんは「スミマセン」と言ってその場を後にする。
彼の背中を見送り、私はさてと、と椅子から腰をあげた。
「書類から逃げたのなら……クダリは、多分あそこにいるか」
クダリの行きそうな場所くらい予想はついている、私はクダリを探しに執務室を後にする。
コツコツとヴァンプローファーの踵を鳴らしながら、薄暗い廊下を歩いていく。
ギアステーションの奥へ奥へと進み、一つドアの前へとたどり着くと躊躇なくドアノブに手をかけた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
