150話 ページ50
「俺も味をみましたが、女性が好むだろう味でしたのでこのカクテルをおすすめしました」
「ありがとうございます。こんなに綺麗なカクテル、私初めて見ました」
そう本心からの言葉を彼女に伝えると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべ「ありがとう」と告げた。
そんな彼女の後姿を見やり、私はグラスに手をかける。
鼻先に近づけると、ふわりと甘酸っぱいような香りが鼻を奥を通り抜ける。
香りを楽しみながら、私はカクテルを一口喉の奥へと流し込んだ。
カクテルが舌の上で踊ると、嫌味のない上品な甘さとその甘さの奥に感じる優しい酸味が私を楽しませる。
「美味しい」
ほぅと感嘆の息とともに、私の口から率直の感想がこぼれ落ちる。
そんな私を見ながら、ネズさんは飲み物を口にしつつ「それは良かった」と言葉を返した。
お酒が入ったことで気分が少し高揚するのを感じつつ、私は二人との会話を楽しんだ。
現役のジムリーダーと現役ポケモントレーナーとの会話は、ほとんどポケモンやポケモンバトルについてのことだったが、彼らの知識の深さに私は圧倒される。
話の流れで、私が少しポケモンバトルをかじっていることが分かると彼らは私にも意見を求めたりしてきた。
いつもの私ならあまり気の乗らない話ではあったが、久方ぶりにアルコールを摂取したからか特に不快感もなく純粋に話を楽しむことが出来た。
「あ、そうだAさん。一緒に写真撮ってもいい?」
「写真、ですか?」
ポケットからスマホを取りだしながら、そう頼んでくるマリィさんに私はそう言葉を返す。
写真か、最近撮っても撮られてもないな。
なんてことを思い黙った私の耳に、ネズさんの困ったような声色が飛び込んできた。
「こらマリィ。あまりAさんを困らすのはいけねぇですよ」
そう窘めるネズさんに、マリィさんは少々不服なのかむぅと頬を膨らます。
そんな彼女の様子を可愛らしいと思った私は、自分にもし妹がいればこんな気持ちになるんだろうなと自覚する。
「いいですよ、マリィさん撮りましょうか」
「いいの? やったっ」
「いいんですか?」
私の言葉に少女らしく喜びスマホを操作するマリィさんを見ながら、ネズさんが私に声をかけてくる。
彼に肯定の意を込め頷いて見せると、ネズさんは「分かりました」と納得した様子を見せた。
「ほらアニキも入って。撮るよ」
「はいはい」
マリィさんは慣れた手つきでスマホを掲げると、すぐにスマホから可愛らしい音が鳴った。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
