147話 ページ47
反射的にドアの方へ顔を向けると、白黒の特徴的な髪色と髪型をした痩身の男がゆらりとそこに立っていた。
ばたんと音を立てて閉じるドアを背にして、ゆらゆらと歩いてくる男にマリィさんが少々弾んだ声で男に駆け寄る。
「アニキっ!」
「おぉ、マリィ。帰って来てたんですね……そちらのお嬢さんは?」
目の下に濃いクマをたくわえた男は、傍に寄ってきたマリィさんを愛おし気に目を細め彼女の肩に優しく触れる。
そして、流れるように視線を動かし自分をとらえたので、私は彼に向かって軽く頭を下げた。
しかし、三十五にもなって"お嬢さん"と言われるとは思わなかった。
私、そんなに童顔に見えるのだろうか。
そんなことを思っているなどと知るわけもないマリィさんは、先ほどの女性と同じようにこれまでの経緯を説明してみせた。
「そうだったんですね……妹を助けてくれたようで、ありがとうございます」
「そんな、顔をあげてください。大したことはしていませんし……」
これ以上の言葉はもうお腹いっぱいだ、と思いを込めそう言葉を告げる。
私の言葉が本心からだと気づいたのか否か分からないが、目の前の男――ネズは渋々といった様子で頭を上げた。
「そうだ。もう聞いたかもしれねぇですが、俺はネズと言います」
「私はAと申します」
「さぁ、ずっと立ちっぱなしもなんですから、どうぞお席へ」
互いに自己紹介を終えた私達に、女性がそう促した。
その言葉に甘え、私達は奥の方へある対面座席へと腰を下ろす。
「ここは俺が持ちますから、どうぞ好きなの頼んでください」
「そんな、自分の分は払います。私は見返りが欲しくてやったわけではありませんし」
たかだか暴漢を投げ飛ばしただけの人間に、そこまでしてもらうのも無いと思う私は両手を振りそう告げる。
私の言葉が意外だったのか、ネズさんは伏しがちな目を丸くしつつ口を開いた。
「あなた、謙虚な方なんですね」
「いや、謙虚とかそういうのでは……」
「……まぁ、ここは俺を立てると思って」
ネズさんの言葉に、男の人にそこまで言われたら逆に失礼かと思った私は、彼の申し出を有難く受けることにした。
「では、お言葉に甘えて」
「はい。気にせずどんどん言ってください。俺、これでも稼いでますので」
「アニキはジムリーダーでもあってシンガーソングライターなんよ」
マリィさんの言葉を聞き、私の頭の中で今の今まで埋まらなかったパズルのピースがピタリとハマった。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
