144話 ページ44
キバナは、以前に私物を窃盗しようと控室に侵入した熱狂的すぎるファンや、嫌がらせ目的に勝手に控室に侵入しようとした悪質なアンチがいたりして問題になったことを二人に伝えた。
ガラルのジムリーダーには純粋に応援してくれるファンも多いが、それに比例するかの様にアンチと呼ばれる奴らも多いのだ。
キバナの発言に、カブは"そういえばそんなこともあったな"と心の中で思い、ヒロノブはそんなカブを見て、"こいつ今の今まで忘れてたな"と思った。
「キバナ君の言い分は分かった。だけど、確認もせずに追い返すのは駄目だよ。あの子のことだ、ちゃんと許可証は首に下げてたと思うけど」
「……どうだったっけ? 小さかったことしか覚えてないな」
「君から見たら、大体の人は小さいよ」
カブの言葉に、過去の事を思い出そうとしたのか斜め上を見ながらそう言い首を傾げるキバナに、カブはやれやれとでも言いたげに肩をすくめてみせた。
「とにかく事情は分かったよ……電話にも出ないし、きっともう帰ってしまったんだろうね」
悲し気に目を伏せながらそう吐き零すカブに、キバナはそれならばと勢いよく立ちあがりポケットに突っこんだままのスマホを取りだした。
「ならオレが、探しますっ! SNSを使えばすぐにでも」
キバナが愛用しているSNSたちのフォロワーが凄いことになっているため、ちょっとキバナが呼びかければすぐに見つけられる自身がキバナにはあった。
そんな自分の得意分野で捜索しようとするキバナに、カブとヒロノブは互いに顔を見合わせた。
二人の様子に、キバナは首を傾げることしか出来なかった。
「あの、気持ちは嬉しいんだけど……あの子、そういうのはやってないと思うよ」
「え……?」
「おそらく、いや絶対にやってないだろうな。Aちゃんは」
「うん。前に聞いたら、そういうのは苦手だって言ってたしね」
「そ、そっすか……」
ここで名誉挽回出来ると思っていたキバナは、それはもう分かりやすく落胆した。
がっくりと肩を落とすキバナの逞しい肩に優しく触れながら、カブはこれまた優し気に微笑んで見せた。
「そう気を落とさないで、キバナ君。ありがとうね」
「カブさん……オレ、そんな言葉を貰う立場じゃ」
己のせいで大先輩である人の身内を不審者扱いして、挙句の果てに追い返してしまった自分にそんな言葉を貰っていいわけがない。
キバナは本気でそう思っているのだが、カブは笑みを崩すことなく言葉を続ける。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
