143話 ページ43
「カブ。お前、Aちゃんどうしたんだ? 控室にいたろ?」
「それが、見送りから帰って控室に戻ったんだけどまだ来てないみたいで」
「えっ? まだ来てないことはないだろう。お前の控室までほぼほぼ一直線なんだし……ちょっくら受付の奴に聞いてくるわっ」
そう言い受付の方へと駆け足で向かうヒロノブの背を、キバナは顔を青ざめ見送るしか出来ない。
やばい、どうしよう、自分はなんてことを。
普段やバトルの時には高速で回る優秀な頭脳も、今この時ばかりはそのことばかりが延々と繰り返され、頭の中を埋め尽くす。
いや。今、自分に出来るのはすぐさまカブに誠心誠意の謝罪をすることだ。
遅れながらその考えに行きついたキバナは、すぐにカブに向かって口を開きかけるが間の悪いことに受付に話を聞きに行っていたヒロノブが慌てた様子で戻ってきてしまい、キバナは開いた口を閉じるしかなかった。
「カブっ! 今受付に聞いたらAちゃん、結構前に帰ったって」
「えっ!? ど、どうして……」
キバナがオロオロしている間にも、カブとヒロノブの間で話が刻々と進んでいく。
心配と動揺からか二人してあわあわとスマホで連絡を取ろうしはじめ、ついには二人がスタジアムの外へと探しに行こうとしはじめた時に、やっとキバナは自分の口から言葉を発することに成功した。
「あのっカブさん!」
「あぁごめんね、キバナ君。ちょっと後にしてもらえるかな」
「すみませんっでしたっ!!」
「え? ど、どうしたんだいキバナ君? 急に……」
突然謝罪の言葉を発したキバナに、カブとヒロノブはスマホ片手にスタジアムの外に行こうとした足を止める。
九十度きっかりの綺麗なお辞儀をするキバナに、何か思うことがあったのかカブはヒロノブとをキバナ連れて奥の部屋へと移動した。
現在使用していない部屋に到着し、キバナはカブに先ほどのことを包み隠さず全て話した。
全てを話し終えたキバナは、いまだに一言も発しない二人に向かってガバッと勢いよく土下座してもう一度謝罪の言葉を口にする。
ちなみに、土下座という存在とやり方は以前いらんことをして叱られたさいに、カブから教えられたものである。
閑話休題
キバナから全てを聞いたカブは、小さく深呼吸してからキバナに問うた。
「キバナ君は僕の姪を知らなかったから仕方ないとして……どうしてそんなことを?」
カブはそう純粋に沸いた疑問を彼に伝えると、土下座から上半身を上げたキバナは口を開き答えた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年9月18日 21時
