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294標的 命の炎の段 ページ44

妖怪や霊も恐ろしいが、本当に恐ろしいのは彼の様に狂った人間だ。
それを理解している私は、ゴクリと喉を鳴らす。


背中の翼をもがれた白蘭さんは狂った笑みを浮かべながら、翼があった場所から血のような液体を大量に噴出させる。
先ほどの白い翼とは違う、どす黒い翼だ。


彼は全身の力を使って、沢田君を追いつめようとするが沢田君の方が上だ。
白蘭さんは自分の背から噴出させている血のような液体を数本の腕のようなものに変化させ沢田君に襲いかからせるが、沢田君はその腕を自らの炎で断ち切る。


私は、彼の今の行動にダメだと心の中で思った。
何故なら……。


「しまった! ユニに落ちる!!」


そう、彼が断ち切った腕が落ちていく先にはユニさんがいるのだ。
落ちていく腕が彼女に当たる、そう思ったがその腕は彼女が全身から放出させている大量の炎によって弾かれた。


白蘭さんが言うには、彼女は今、おしゃぶりに全身の炎を供給しているのだという。
それは、つまり……彼女がおしゃぶりに命を捧げているということだ。


沢田君や京子ちゃん達が止めるよう叫ぶが、彼女はそれが自分の運命(さだめ)だと言いおしゃぶりの供給を止めない。
私は、そういう彼女の瞳に確かな覚悟を感じ開きかけた口を閉じた。


強い覚悟を持った彼女は止められない。


ユニさんのタヒをどうしても阻止したい白蘭さんは真っ直ぐ彼女に向かって距離を詰める。
しかし、それを沢田君は止める。
結界の中では激しい戦いが繰り広げられる。


あのままユニさんを結界の中にいさせるのは危険すぎる。
私は兄さん達の力でどうにか結界を破ろうとするが、まったく歯が立たない。
純度の高い大空の炎で出来ているからか、あの結界に触れると兄さん達の本来の力が出せなくなるようだ。


結界の外にいる人達が結界を破ろうとしていると、ユニさんの炎がドンドン小さくなっていくのが見えた。
彼女は静かに涙を流し小さく震えながら、膝をおる。


そんな様子の彼女に私はすぐに理解した。
彼女は、タヒを恐怖しているんだ。



そりゃそうだ。
まだ年端もいかない子供が皆の為に命を捧げる。
いくら自分の運命だからと言ってタヒを怖がらない人はこの世にはいないだろう。


しかし、彼女は自分の心を支配する恐怖心を心の奥底に抑え込み再び命の炎を全身に灯し始めた。
なんて強い少女なのだろうか、彼女は……。

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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年6月4日 0時

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