２７０標的 舞い降りた希望の段 ページ20
「そ。君たちの負け♪」
暗い雰囲気に包まれた私達に、場違いなほど明るい声が飛び込んでくる。
声の主は言わずもがな、白蘭サンだ。
「僕のことこんなによく分かっているのに、残念だったね。正チャン」
口元に笑みを浮かべ私達を見据える白蘭は、心底楽しそうな声色で言葉を発する。
「結局どの世界でも、僕には勝てないのさ。約束は守ってもらうよ。ボンゴレリングとAちゃんはいただくとして……君たちはどうしよーかなー。いっそのこと、Aちゃんの素晴らしい能力で、皆殺しっていうのもいいかもね♪」
私を見下しながらそう言う白蘭さんに、恐怖と共に怒りが込みあがる。
怒りに任し言葉を発しようとしたが、それよりも早く入江さんがある約束の事を述べる。
その内容は、大学時代にチョイスで賭ける物がなくなった白蘭さんが、入江さんのだす条件を全て飲むという約束を取り付けたというものだ。
そして、その約束でチョイスの再戦を望んだ。
しかし、白蘭さんから返ってきた言葉はその淡い望みを無情にも断ち切った。
これで希望が立たれたと思い絶望しかけた瞬間、女の子らしいされど凛とした声が辺りに響く。
「私は反対です。白蘭ミルフィオーレのブラックスペルのボスである私にも、決定権の半分はある筈です」
姿を現したのは、首にオレンジ色のおしゃぶりを下げた十代前半の可愛らしい少女だった。
彼女が微笑み挨拶をすると、あの獄寺君や笹川先輩までもが頬を朱に染める。
女の私でも、思わずドキッとしてしまうほどの綺麗な笑顔だった。
入江さんの話だと、彼女は白蘭さんに無理やり投与された劇薬で魂を壊され物言えぬ体に変えられてしまったという。
だけど、壊されたと思った魂はずっと遠くに避難させていたのだと彼女は言った。
「話を戻します。私はミルフィオーレファミリーブラックスペルのボスとしてボンゴレとの再戦に賛成です。あの約束は、白蘭と入江さんとの再戦の約束は本当にあったからです」
「……元気になってくれたのは嬉しいけどね、ユニちゃん。僕の決断に君が口出しをする権利はないな。君はあくまでナンバー2。全ての最終決定権は僕にあるんだ」
そう言い切った白蘭さんにユニと呼ばれた女の子は少しだけ眉を下げた後、ハッキリした言葉で述べた。
「では私は、ミルフィオーレファミリーを脱会します」
そう啖呵を切るユニさんの言葉に、私たちは驚き白蘭は少しだけ目を見開いた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年6月4日 0時
