２６９標的 この世界が唯一の段 ページ19
私と同じ事を思ったのか笹川先輩が、怒気をはらんだ声色で入江さんを責める。
「入江!! その間にお前は何をしておったのだ!! 白蘭の悪事を知りながらほうっておいたのか!!」
「……僕は記憶を失っていたんだ」
入江さんの衝撃の事実に、私たちは驚きの声をあげることしか出来なかった。
彼の話によると、八度目のタイムトラベルで未来に言った時未来の入江さんが仕掛けた装置によりタイムトラベルと白蘭さんについての記憶を抹消されたらしい。
それも五年間という長い年月の間。
記憶を消した理由は、白蘭さんに余計な敵意などをもって怪しまれないようにする為だったらしい。
確かに記憶がなければ白蘭さんを普通の人だと認識するだろう。
その後、未来の入江さんの指示で行動していた入江さんは五年がたつと忘れさせられていた記憶を思い出し、白蘭さんのスパイとしてやっていく事を決断した。
そして、パラレルワールドのことを調べていくと今この世界だけが白蘭さんの手によって滅ぼされていない世界だと知った。
たくさんあるパラレルワールドを全て支配しているなんて、白蘭さんの能力の凄さが良くわかる。
「五年前の段階で、白蘭サンの能力による世界征服を阻止できる確率は少なく見積もって八兆分の一。だけど言い換えれば世界征服をされていないパラレルワールドの存在する確率でもある」
「……その条件を満たす世界が、今あるこの世界。それはつまり、たくさんあるパラレルワールドの中で唯一白蘭さんを倒すチャンスのある未来なわけなんですね」
「そうだ……僕が過去の僕に指示してつくった未来だということもう一つ。僕と綱吉君が唯一、偶然出会えた世界でもあるんだ」
過去に二人が出会うことで、奇跡的にボンゴレ匣がつくられる未来になったと入江さんは言う。
それから、入江さんはこの時代の沢田君のﾀﾋの偽装について話した。
この時代の沢田君をミルフィオーレが射殺されるときに、入江さんが弾丸を特殊弾と呼ばれる特別な弾にすり替えて、この時代の沢田君を仮死状態にしたのだ。
沢田君が言う棺桶というのは、敵の目を欺くためのカモフラージュだったらしい。
「選ばれたツナ達と……選ばれた時代か……」
「……難しくてよく分からないところもあったけど、れだけはしっかり分かった。なのに……負けちゃった」
沢田君の沈んだ声が小さく響く。
彼のその言葉に、私たちは顔を俯かせる事しか出来なかった。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年6月4日 0時
