２６７標的 敵への執着の段 ページ17
「A、あの人間まだかすかに息はあるよ」
「っ! 葛の葉すぐに手当を!」
「分かった」
伊作兄さんにそう頼み、私も入江さんの傍に駆け寄る。
私達の必死の声掛けに、意識を失っていた入江さんが小さな呻き声をあげた。
獄寺君が傍に落ちていたヒビの入った眼鏡を入江さんにかけてやると、荒い息をこぼしながらチョイスの結果を聞いてきた。
入江さんの問いに沢田君は申し訳なさそうに眉を下げながら負けを伝えると、入江さんは勢いよく体を起こし焦りの色を見せた。
「勝たなきゃ……勝つんだ!!」
何かに取り憑かれたかのように勝つんだと言う入江さんを、獄寺君と沢田君が止める。
しかし、入江さんはﾀﾋんだっていいと異常なほどに勝ちに執着する。
そんな入江さんの様子に、理解が追い付かない沢田君がついに自分の思いの丈をぶつけた。
「確かに白蘭は悪い奴だし、トゥリニセッテを奪われたら大変だって言葉では分かるけど……しっくりこないんだ」
沢田君の言葉を聞いた入江さんは、自分と白蘭さんとの間に何があったのかをポツリポツリと話し始めた。
ひょんなことでタイムトラベルした子供の時の入江さんは海外の大学で白蘭さんに会った。
この時が、白蘭さんと入江さんが初めて会った瞬間だった。
しかし、小さい頃ミュージシャンになるのが夢だった入江さんは、そのタイムトラベルの結果に落ち込み、未来を変えようと考えたのだ。
「未来を変える? そんなこと……」
「過去を変えれば未来も変わる……未来は一つじゃないんだよ」
入江さんの言葉に、私はある言葉が思い付きそのまま口に出すと子供特有のあの声とかぶってしまった。
「パラレルワールドだね」
「パラレルワールドだな」
観覧席から降りてきたリボーン君達が此方に向かって駆けてくる。
私と同じ事を言ったのはリボーン君だったか。
「A正一の様子はどうだ?」
「今、葛の葉が手当てしてくれているけど……酷い怪我の上に生命力の低下で、完全に治癒するのは難しいみたい。とりあえず止血してお腹の穴を塞いでる」
「そうか。了平、晴れゴテを開匣しろ」
「ありがとう。秋月さん、リボーンさん……それよりパラレルワールドの説明を……」
「パラソルワールドとはなんだ!?」
「パラレルだっバカ!!」
笹川先輩の間違いを律儀に訂正する獄寺君をよそに、リボーン君はパラレルワールドの説明を始める。
パラレルワールドとは、かいつまんで言えばもしもの世界のことである。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年6月4日 0時
