２６１標的 負傷の段 ページ11
"気を抜くなA!"
「えっ?……!!」
仙蔵兄さんの言葉に顔を上げると、モスカの巨大な胴体が私のすぐ目の前にあった。
そして私の思考と身体が動く前に、目の前のモスカが重たい拳を振り上げ下ろしたのだ。
「ぐぁっ!?」
ガードする間もなくお腹に拳が直撃し、そのまま地面に叩きつけれた。
激しい衝撃が背中や頭につたわり、思わず顔をしかめる。
しかし、態勢を立て直す前にモスカが怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
「グッ! 影法師、ガードを!」
"承知!"
兵助兄さんは私の周りの影を使い、私を覆うように敵の攻撃を防ぐ。
その間に、私は殴られたお腹を支えながら羽をはばたかせ空を飛んだ。
「のっぺらぼうに化け狸」
"了解!"
"その間にAは少しでも傷を癒しておけ"
「お願い」
私は手に数枚の葉っぱを持ち、勢いよく横に投げ払った。
すると、投げた葉っぱ一枚一枚が私の姿に変化する。
化け狸の変化の術で化けた偽の私にのっぺらぼうが作り出す偽の気配を纏わせた、所謂ダミー人形だ。
私の思惑通り、モスカはダミーに向かって攻撃を仕掛けている。
今のうちに、傷をある程度まで治しておかないと。
私は再び地面に降り立ち、伊作兄さんに語り掛けた。
「葛の葉。治癒を」
"うん。幸い骨や内臓までは傷ついていないから、すぐに治せるよ"
伊作兄さんはそう言い、私の中で治療を始める。
憑依されているせいかあまり痛みを感じない体に、じわじわと熱くなる。
私は目を閉じて息を整えていると、頭の中に伊作兄さんの手当て終了を告げる声が響く。
その声に返事をして、私は再び上昇した。
そして、指を鳴らし変化を解くと素早く目標を私に絞ったモスカが凄いスピードで此方に向かってくる。
"A、三秒後に右から拳が来るぞ"
「了解。三……二……一!」
仙蔵兄さんの予知通りモスカは右ストレートをかけてくる。
それを避けると、すぐさま仙蔵兄さんの言葉が頭に響いた。
"そのまま腕を掴んで、一本背負いだ"
"俺の怪力なら簡単にひっくり返るぜ!"
「分かった!」
兄さん達の言う通りに腕を掴み地面へと叩き落とした。
硬いはずのコンクリートの道路が、モスカの重量と上空から叩き落とした衝撃で壊れる。
自分でも驚くぐらいに軽く投げられてしまったが、この高さから落とせば普通の機械は壊れるだろう。
そう思っていたがもうもうと立ち込める黒い砂煙が不自然に揺れるのを見て、自分の予想が外れていることを悟った。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年6月4日 0時
