174話 ページ24
Aが目を覚ました。
この情報はあっという間に学園を駆け巡り、瞬く間に学園とタソガレドキ忍軍に広がった。
ある者は驚き、またある者は安堵し涙を零したが、皆一様に彼女の目覚めを喜んだ。
目を覚ましたAを見舞おうと、医務室には連日大勢の見舞客が入れ代わり立ち代わり訪れ彼女を見舞った。
見舞客の中にはタソガレドキの忍び組頭の雑渡昆奈門の姿もあったが、彼の部下である諸泉尊奈門の姿だけはなかった。
いや、正確には尊奈門も彼女の元へと赴いてはいる。
ただ彼女が深い眠りにつき誰も見舞いに来ない深夜にこっそりと彼女のいる医務室へと足を向けているのだ。
Aが眠りにつく頃にやって来て彼女の傍に腰を下ろし、彼女が目覚める前に彼女の元を去る。
それを毎日毎日繰り返し両の指では数えきれなくなった頃、尊奈門はいつものように医務室へと足を向けていた。
すぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠るAの姿に安堵の息をもらしながら、尊奈門は慣れた様子で彼女の傍へと腰を下ろす。
少し前まで苦し気な顔を見ていたせいか、彼女が穏やかな表情で眠る姿に尊奈門は酷く安堵した。
いつだったか、尊奈門は上司である昆奈門からこう聞かれた事がある。
「何故、Aが起きている昼間に見舞わないのか」と。
その時、尊奈門は昆奈門の言葉に返事をする事が出来なかった。
何故ならあまりに幼稚かつ未熟で、尊敬する上司の前で口にするのは酷く憚れたからだ。
彼女の前に出るのが怖い。
もしAが自分を拒絶したら、もしAが自分を見て恐ろしいと思ったら。
――もしAに嫌われてしまったら。
自分が忍者である事には、確かな誇りを尊奈門は持っている。
忍者として生き、忍者として任務を全うすることになんら不満はない。
だけど、そう考えただけで尊奈門の身体は竦んでしまう。
忍者としての自分と、彼女を愛おしく想う自分の心の板挟みに苦しみ、このままじゃだめだと思いながらも尊奈門は眠る彼女の元へと通い続けていたのだった。
ふと、医務室の外から明朝を告げる鳥の声が聞こえてくる。
もうこんな時刻かと、尊奈門はAが目を覚ます前に帰ろうと腰を上げた。
「……待って」
立ち上がろうとした尊奈門の耳にAの小さな声が飛び込び、尊奈門は驚いて視線を彼女へと合わせるとうっすらと目を開けた彼女の瞳と目が合った。
もう長らく聞いていなかった彼女の声は、寝起きのせいか酷く掠れているように感じた。
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長月シキカ(プロフ) - mozomozoさん» コメントありがとうございます!レスが遅くなってしまい申し訳ありません。この作品ではキャラの心理描写に気をつけながら作り上げたので、mozomozo様のお言葉とっても嬉しいです^ - ^閲覧感謝です♪ (7月13日 17時) (レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
mozomozo(プロフ) - とっても素敵なお話でした。何より心理描写が綺麗で本当に惹き込まれました。 (7月1日 2時) (レス) @page30 id: c5d40106d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2022年10月28日 0時