170話 ページ20
ふと目を開けると、私は見たこともない場所にぽつんと立っていた。
確か、私は仇の男が投げた武器が胸に刺さって倒れたはず。
痛みもなく血の一つも付いていない寝間着を確認しながら首を傾げる私の後ろから名前を呼ばれた。
私は、その声に心当たりがあった。
いや、忘れるはずもない。
もう聞くことは叶わないと思っていたその声に、私は勢いよく振り返った。
「お、おじいさんっ!」
振り返ったみたその先には、思った通りおじいさんの姿が佇んでいた。
もう会えないと思っていたおじいさんの姿を見た私は無意識の内に涙を零しつつ、すぐさまおじいさんの元へと駆け寄った。
勢いよくおじいさんの胸の中へと飛び込んだが、おじいさんは後ろに倒れる事などなく私を抱きとめる。
「おじいさんっ! うぅ˝ッ――おじいさぁ˝んッ!!」
会いたかった、おじいさんの仇を取れなくてごめんと涙声で言いながら、まるで幼子のように泣きつくす私をあやすかのようにおじいさんは私の背中をぽんぽんと優しく叩く。
よしよし、よく頑張ったな。と頭上からおじいさんの声が降り注いでくる。
そんなおじいさんの言葉に、私は更に涙をあふれさせた。
「ほら、もう泣くんじゃねぇ。目ん玉溶けちまうぞ」
小さく笑いながらおじいさんは節くれだった手で私がこぼした涙をゆっくりと拭っていく。
自分の目尻に彼の太い指が滑っていくのが心地よくて、涙を流したままだが思わず笑みがこぼれる。
「A。おめぇに話さなきゃならんことがある」
「――話?」
「あぁそうじゃ」
おじいさんは私を胸から離すように肩を抱くと、そう口火を切る。
話とは何なのかと思う私の頭を一撫ですると、言葉を続けた。
「まず、ここはおめぇが住んでいたところじゃねぇのは分かってるな」
おじいさんのその言葉に、私はようやく辺りを見渡した。
自分の周りや足元には見たことのない植物や、今の季節じゃ咲かないはずの花が見事なほどに咲き誇っている。
風もないのに空には花々の花びらがちらほらと舞い踊っているのを見て、私はやっとここがこの世ではないのだと悟った。
「あぁそっか――私、死んじゃったのか」
全てを思い出した私がそう口にするが、おじいさんは首を横に振る。
「確かにここはあの世に近い場所じゃが、おめぇはまだ死んじゃいねぇ」
まぁ死にかけではあるがな、と呟くおじいさんの言葉に、目を丸くして驚いてしまう。
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長月シキカ(プロフ) - mozomozoさん» コメントありがとうございます！レスが遅くなってしまい申し訳ありません。この作品ではキャラの心理描写に気をつけながら作り上げたので、mozomozo様のお言葉とっても嬉しいです^ - ^閲覧感謝です♪ (7月13日 17時) (
レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
mozomozo(プロフ) - とっても素敵なお話でした。何より心理描写が綺麗で本当に惹き込まれました。 (7月1日 2時) (レス) @page30 id: c5d40106d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2022年10月28日 0時
