20話 ページ20
これまで一切見たことのなかったその表情に、思わずパチパチと瞼を数回動かす。
だけど、次の瞬間にはノボリさんの表情はいつものあの表情に戻ってしまう。
もしかして私の見間違いなのかと首を傾げていると、目の前のノボリさんは頭の帽子のつばを掴み目深にかぶりながら口を開いた。
「……えぇ、初めまして、ですね」
「あ、あの、な」
にか? と続く筈だった言葉は、地下鉄内に響く聞き慣れた音楽によって遮られてしまった。
音楽によって帽子を上げたノボリさんと目が合い、私の心臓が大きく跳ねる。
「お引き止めしてしまい、大変申し訳ありません。見たところご出勤の途中でしたのでしょう?」
「へ、あっ! だ、大丈夫ですっ! 全然間に合うので、どうぞお気になさらないでください」
渾身の笑みを浮かべながら、私は内心会社に対して舌打ちをする。
正直言って、今の今まで会社の事をすっかり忘れていた。
視界の端に見える時計を見ると、いつも乗っている電車が発車した時間だった。
次に来る電車は、ノボリさんに出会う以前の私が乗っていた通勤ラッシュど真ん中の電車だが、ノボリさんと会って会話が出来たという奇跡の代償と思えば、まったく苦にならない。
いや本当に。
なんてことを思っていると、遠くから誰かを呼ぶような声が聞こえてくる。
よく聞いたら、どうもノボリさんの名前を呼んでいるようにも聞こえる。
「……私を呼んでいるようですね。そろそろ行かなくては」
そう言いながら、彼は声のする方へと顔を向ける。
彼のその様子に、天国のような時間の終わりがついにきてしまったのだと悟った。
これ以上ここにいると、名残惜しさから会社に行きたくなくなるので私は断腸の思いで口を開く。
「っでは、私はこれで失礼しますね。ノボリさんとお話が出来て良かったです」
そう本心からの言葉を告げ、私は精一杯の笑みを浮かべる。
心の中で血の涙を流しながら、ノボリさんから背を向けようとする。
しかし、その行動はノボリさんの声によって阻まれた。
「Aさん」
「へぁっ!? な、なんでしょう?」
まさかノボリさんに名前を呼ばれるとは思っていなかったから、私の口からまたもや変な声がもれでる。
折角チョロネコを被ろうと努力しているのに、これじゃあ全部無駄になってしまう。
そう思うが、ノボリさんは気にしていないらしく何かを言おうと口を開けようとしている。
彼は何かを言い淀むような様子を見せるが、結局最後は小さく頭を振った。
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長月シキカ(プロフ) - 鶴媛さん» コメントありがとうございます! サブマスの小説って確かに少ないですよね……。鶴媛様のお言葉を胸にこれからも精進致します! 閲覧感謝です♪ (2022年1月2日 0時) (
レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
鶴媛(プロフ) - サブマスが出てくる小説少ないので嬉しいです！！ (2022年1月1日 20時) (レス) @page50 id: 5d76437753 (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - きりさん» コメントありがとうございます! 最近ハマったポケモンという舞台での拙い作品にそのように言っていただき本当に嬉しいです＾＾確かにBWの作品って最近ないですよね……きり様の言葉を励みに、これからも頑張ります!! 閲覧感謝です♪ (2021年12月18日 23時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
きり - あ、ごめんなさい。「擬態が」の部分はミスです💦 (2021年12月18日 22時) (レス) id: dee96936d9 (このIDを非表示/違反報告)
きり - 初コメ失礼します。すっごく面白いです！ポケモン、特にBWの小説は最近全然ないので、久しぶりに見つけてすごく嬉しくなりました。 サブマスの2人、いいですよね……！ゾロアも擬態がとても可愛いし、読んでいてほっこりします。これからも更新頑張って下さい！ (2021年12月18日 22時) (レス) id: dee96936d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2021年11月28日 2時
