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29話 早食いはもはや特技 ページ29

尊奈門先輩と固く握手した後、尊奈門先輩は出来た料理を運んでいくと言ってその場を離れていった。
そんな彼の後姿を見ながら、いまだに温かな熱が残る利き手を自分の胸の前で反対の手で握る。


まさか、会って半日しか経っていない相手にあぁまで言ってくれる人がいるなんて思いもしなかった。
真っ直ぐな彼の言葉は、硬く作った筈の壁をいとも簡単に通過して私の心に届き、あの人なら大丈夫かもしれない、と思うようになった。


「……ありがとうございます、尊奈門先輩」


そう口からこぼれ出た言葉は、おそらく彼には届いてはいないだろう。
だけど、それでもいい、私が言いたかっただけなのだから。


少しだけ満たされた心を抱いたまま、私は洗い物を再開させた。
それからしばらくすると、尊奈門先輩が消えていったほうからガヤガヤと騒がしくなってきた。


多分、忍者隊の人達が食事を始めたのだろう。
流石に、あの中に割り入る勇気はない私は、時間つぶしのつもりで残り少ない洗い物を今までに無いぐらい時間をかけて丁寧に磨いていった。


木で作られたお玉や包丁などをピッカピカにしていると、カチャカチャと食器が擦れる音が聞こえてきた。
その音の方に振り向くと、たくさん重なった食器をもった尊奈門先輩が戻ってきていた。


「あ、持ちますよ」

「あぁありがとう……Aさんも夕飯食べてきたらどうだ?」

「ありがとうございます。では、そちらの食器を洗ってからそうさせていただきます」

「そうか。だが、今なら人はいないぞ」


尊奈門先輩は私を気遣ってかそう言ってくれた。
そんな彼の好意に甘え、私は食事を取ることにした。


先輩から貰った食器を持って教えてもらった場所までいき食事を取る。
今日の晩御飯は雑炊のようで大きな鍋の中に半分くらい残っていた。


私はその鍋に入っているお玉を使って雑炊をお椀に入れ、一気に口の中にかき込む。
ブラック企業で働いていたせいで、早食いはもはや私の特技の一つになってしまっている。
だが、今の状況でこの早食い癖はおおいに助かっている。


あっという間に食事を終わらせ空になった食器を持って洗い場に向かうと、尊奈門先輩がギョッとした目で私を見つめた。


「はやっ!? Aさん本当にちゃんと食べたのか?」

「はい、とても美味しかったです。尊奈門先輩は料理がお上手なんですね」

「え、あぁ、ありがとう」


私の言葉に照れたのか顔を赤くする先輩に、私は少し可愛いと思ってしまった。

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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時

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