赤と黒のLiberations11

【氷と雪】7　★ ページ34

何か言いがかりをつけられたのだろうか。
距離があるからよく聞こえないけど、相手は女性のようだし、ひょっとしたら俺のファンが妻であるAを責めてるとかの構図では…。いや、本当のファンはそんなことしない。うん、しない。

「どうかしました？」

あくまでも冷静沈着を装い、リンクサイドの二人に声をかけながらフェンスまで滑り寄ると、ふと女性がびっくりしたように俺を振り返った。

背格好はAとほぼ同じくらいで、着ている白いワンピースがそこそこ薄着なのが見てとれる。
ここ寒いのによく平気だなと思っていると…。

「ゆづくん！私の姿が見えるのね？！」

「え？」

見えるのね？…ってなんだ？？
そこに“いる”のだから、お互い見えるのはあたりまえなのに。

彼女の言ってる意味がわからず、首をかしげながらAへと視線を向けると、なぜかものすごく困った顔で、声を出さずに口だけパクパクと動かした。

ゆ、き…？その動きをいまいち解読できないうちに、女性がかなり高いテンションのまま、フェンス越しに俺の手を握った。

「冷てっ！」

その手がものすごく冷たくて思わず振りほどくのだけど、それでもお構いなしに女性が話を続ける。

「私、ずーっとこのリンクでゆづくんを見守ってきたんだよ！」

「はぁ…。」

その表情は乙女のようでもあり、とても嬉しそうだけど、あっけにとられる自分としてはいまいち発言の意味が分からない。

「それなのに結婚しちゃうなんてひどい！ゆづくんは私のものなのに！」

「へ？」

え…まさかこの人、面倒くさいファン？
自分のものとかの発言がかなりやばいし、ついでにあり得ない薄着の服装もやばい。そもそもリンクには俺たち以外誰も入れないはずなのに、ここにいること自体が問題だ。

もしもこの悪い予感が的中するなら、こういうタイプの人は刺激するともっと危ないから、助けを求めたほうがいい。
誰か他のスタッフはいないかなと辺りを見渡すのだが…。

「羽生くん…。」

ふとAが、まるで俺のしようとしていることが無駄であるかのように首を横に振る。
そして、実は…と言いかけた瞬間、女性が自分たちしか知らない秘密を叫んだ。

「それなのに相手が本物の安倍晴明だなんて敵うわけないじゃない〜！」

「えぇ？！」

安倍晴明…。なんで？？なんでこの人、Aの正体を知ってるんだ。
俺は再度Aをガン見し、その答えを求める。

すると今度は小声で、でもはっきりと女性の正体を告げた。

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