赤と黒のLiberations8

【幸せな時間】9　☆ ページ19

「あ〜…早くして…。」

「自分から乾かしてって言ったくせに。ふらふらしないでね。やりにくい。」

「はーい…。」

子供みたいな声出して。こういうギャップが羽生結弦だよ。

「こんなもんかな。後は自分でできるよね。」

カチッとドライヤーのスイッチを切ったら、羽生くんが、さんきゅ…。と脱力感満載でスーツの方へ移動し、おもむろにＴシャツを脱いだ。

それを椅子の背にでもかけるのかと思いきや…。

「ほいっ。」

「わっ。」

私へとふんわり投げつけてきたので、顔の前でキャッチするはめになる。

「たたんどいて。」

「…はいはい。」

しょうがないなぁ。別にいいけど…。
また言われた通り、速乾性の良さそうな素材の黒いシャツをたたんでいると、続けざまに不恰好なズボンが飛んできて、今度は目の前に落ちた。

「ナイスコントロール。」

「ちょっと。せめて脱いだら表にしなよ。」

「次そうしまーす。」

「んもぅ…。」

片足だけ裏返しに脱ぐなんて子供か。
世話がやけるなぁと思いつつも、たたんだシャツを横に置いて、半分裏返しのズボンに取りかかる。

でもこんなやり取り初めてなので、怒る気持ちは微塵も湧かない。

「ねぇA、ネクタイ結べる？」

「え？」

私がズボンをたたみ終えたら、羽生くんの着替えもほぼ終わっていて、あとはネクタイを残すのみとなっていた。

何度か試みているものの上手く結べないのか、その四苦八苦した様子は、いつも完璧な彼からは想像もつかないほど子供っぽさに磨きがかかっている。

「なんか苦手でさー。」

「そんなの私も無理だよ。やったことないし。」

「だよな。もうこれでいっか。」

結果、少し斜めになったネクタイ。格好に関しては諦めが早いようだ。

「もう行くの？」

「うーんと、後１０分くらいしたら出るかな。」

１０分…。せっかく会えたのにここでお分かれか。
名残惜しいなと落ち込む中、一つのアイデアがひらめいた。

「あ、髪やったげようか？」

「え？」

「スーツだし、髪型ちょっといじろうよ。５分で済むから。」

そうだ、ヘアワックスもあるし、さらさらヘアーより大人っぽくしたい。

「そう？…じゃそうしよっかな。」

「うん。こっち来て。」

羽生くんも了承してくれた。
私は彼の腕を引いて、ソファーに座らせた。





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