赤と黒のLiberations7

【スケートカナダ】8　★ ページ8

★羽生サイド

スケートは難度の高いジャンプも大事だけど、それ以上に繋ぎや流れもかなり凝ったものにしなければいけないと考えている。

短い曲の中で、ジャッジにどう印象付けるか。
オトナルは全体を通して派手な曲じゃないから、感情的かつダイナミックさが必要なのだ。

そんな中挑んだ昨日のショートは、かなりいい感じでのスタートとなった。

サルコーもアクセルも、充分な出来映えだったし、ステップが踏めなくてレベルが最高評価ではなかったものの、投げ込まれるたくさんのプーを見た瞬間、達成感と共に幸せな気持ちにもなれた。

いつもたくさんのサポートを受けているので、こうして結果に表れると素直に嬉しい。

そして今。臨戦態勢でフリーへと挑んでいく俺は、全身のあらゆるパーツを逆立てるかのようにリンクに入る。

それと同時に沸き上がる大歓声。
わかってる…。ここにいる観客のほとんどが自分を見に来てくれていること。

それを嬉しく思わないわけがないのだ。
でも…。

「Aなら、どんな気持ちで見るだろう…。」

固唾を飲んで、祈るように胸の前で手を合わせてるか。それとも、怖くて見れないかな。

そんなどうでも良さそうなことを考えながらジャージの上着を脱ぐ。

日本は今、午前と午後の間くらい。
真面目なAのことだから、ライスト観戦せずに、今頃仕事を頑張っているだろう。

「俺も頑張る！」

耳も尻尾も髭も生えた今の自分。そんな恋人にしか見えない白狐の姿で、勢いよく氷上を駆け抜け、まず３回転ジャンプを跳ぶ。

負けねぇ…。いや、もう負けなんてありえない点差が出てる。
オータムの時とは違って、ミスさえしなければ点数は必ず出るはず。

おかしなジャッジができないくらい、誰が見ても綺麗なジャンプを跳んでやる！

「ノーミスして勝つ！！」

今の構成でマックスの点数がどれくらい出るのか。
それでネイサンに勝てるのか。その方法を模索したい。

そして、あの時の逆境が自分の最大の武器になるということを、知らしめてやる。
俺は天を仰ぎ、大勢の観客席へ胸を張った。






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