赤と黒のLiberations6

【優しさ】4　★ ページ29

★羽生サイド

『それでね、まどかったら行くって聞かないの。』

「へぇー、すごい行動力。」

夜。また以前のようにAとテレビ電話で話すプライベートタイム。

でも今日は妹のまどかちゃんの話で持ちきりだ。
なんと、グランプリシリーズの日本大会であるＮＨＫ杯に当選したというのだから。

『たった一日のために、北海道の親戚に迷惑かけるなんて信じられない。』

一日だけというのは、男子フリーしか当たらなかったからなのだけど、それでさえすごい倍率をくぐり抜けて勝ち取ったチケットだ。まどかちゃん、絶対に行きたいだろうな。

「Aは応募しなかったの？」

『当たるわけないから最初から考えてなかったよ。札幌なんてそこそこ遠いし…。あーあ、ちょっと羨ましいかも…。』

口を尖らせて枕にあごをうずめる姿は、相当がっかりしているように見える。
俺と会えるチャンスをみすみす逃したとでも思っているのだろうか。

「ふふ。でももしAが会場で見てると思ったら緊張しちゃうわ俺。」

『そう？遠すぎて気にならいよ、きっと。』

「それに近くにいたら会いたくなっちゃうじゃん。」

好きな人が側にいるというのは、集中の仕方に影響するかもしれない。
自分としてはあまり試合前のルーティーンは変えたくないし、試合が終わった所で、会場には常に周りに誰かいるから会うのなんて無理だ。

Aに来てもらっても話もできないから、きっとお互いつらくなるだけだろう。

『テレビで見てるから。お茶の間観戦。』

「それがいいわ。当日はライブ放送だといいけどな。」

フィギュアはなぜか録画放送が多い。
海外の試合なら時差の問題で納得できるけど、せっかく国内なのだからリアルタイムで放送して欲しい…とは言うものの、昔の中国杯みたいなことが起こるとどうしようもないから、難しい部分もあるかな。
でも国営放送だし…去年はどうだっけ。

『あ！それより聞いてよ。まどかったら、私が買ってあげたカレンダーの他に、もう２種類勝手に買ってたんだよ？』

しかもこっそり私の携帯いじって！と、Aがいきなり怒りだした。

「例の推しのカレンダー？」

『そっ！…そうそう。』

つい口から出てしまったのか、今一瞬、言わなきゃ良かったって顔をした。

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