赤と黒のLiberations5

【誕生日プレゼント】1　★ ページ19

★羽生サイド

トロントにいる時は、観光など一切せずにひたすら練習の日々を送っている。

それはプライベートも同じで、いつも恋人の事を考えているわけじゃない。

コウくんへのおとしまえは、帰国してからきっちりつけるとして、まずは目先のことに集中しなければ。

そして今、クラブでジャンプのコーチであるジスランと、今季の鍵である４回転アクセルの練習中。

「あー！！」

ゴンッという着氷音と共に、その場にお尻から体制を崩す。
着氷の衝撃に足が耐えられなくて、エッジが氷にはじかれてしまったのだ。

「くっそ…。」

今季の試合まであと１ヶ月ほどしかないのに、まだまだ納得のいく形まで完成してない。

「衝撃がでかすぎて上手くコントロールできねぇ…。」

膝をついたまま、荒く呼吸をする。
実戦で投入するには、あまりにも先が長い気がするし、もっと先を見据えてアクセルの投入を考えた方がいいかもしれない。

「ユヅル、すぐに立って！」

ジスランからの声かけで、疲れた身体を奮い立たす。
二、三度その場で軽くジャンプしてみても、さっきの失敗による痛みは無いな、良かった。

滑っている人の邪魔にならないよう、一旦ジスランの元へ行き飲み物を口に含む。

「何をどう意識したらいいか、まだあと少し分からない。」

ずっと、３回転アクセルを跳ぶ時は、それなりの信念みたいなものがあったのに、４回転になるとそれが当てはまらないような気がする。

「今までの感覚は捨てないで。それを踏まえて、もう一つ意識する部分を探してみよう。」

意識する部分を探す…。

「それだと今以上に頭の中が忙しくなる。」

「大丈夫。冒頭に跳ぶジャンプだから、すぐに忘れればいい。」

「簡単そうに言いますけど、じゃあ意識する部分ってどこなんです？」

「うーん…。」

ジスランが腕を組んで考え込む。
そりゃそうだ。４回転アクセルなんて、今だかつて誰も跳んだことがないのに、跳び方なんて分かるはずがない。

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