氷の国20

【翡翠と珊瑚】6　★ ページ29

「争奪戦も何も、あれは一世帯に一冊ずつ配るから皆に行き渡るでしょ。」

「ゆづさん、それだと少ないですよ！一世帯に人は何人いると思ってるんですか。」

何人…。それは重要なことなのだろうかと思いつつも、世間一般的な人数を思い浮かべる。

「…だいたい四人くらいじゃない？」

「そのご家族に母親と娘さんが二人がいた場合、最低でも３冊は必要です。」

Aが俺に向けて、指でびしっと３を作る。
それは一人一冊という意味だろうか。

「詰所や交流センターとかでも余分に配ってるよ？」

「そんなの一瞬で無くなりますよ。今回は私たち三人の肖像画だけでなく、伏し目のゆづさんがソロで掲載されるんですから。」

「そんな一枚追加しただけで…。」

今回は最初三人での肖像画しか考えてなかったのだが、長い間王子である自分の正式な肖像画を描いてなかったなという流れから、急遽一枚追加してもらったのだ。

「いいえ。飾る用と保存用と一人で楽しむ用と…。」

今度は指折り数えながら、Aがまた謎の言葉を発している。

「それは大げさじゃない？」

「佳菜子さまなら分かりますよね？これはゆづ王子のお城便りクエスト状態になりますよね？」

「なるかなぁ〜…。」

「なります！たくさん準備した方が安全です。」

半信半疑な佳菜とは対照的に、公式の肖像画はなかなかないんですよ！とAがどんどん力説モードになる。

「佳菜ちょっとジプシーダンスの練習の時に小耳にはさんだんだけど、今スケートがオフシーズンだから、城下のファンはゆづロス中なんだって。」

「ゆづロス？！」

思わず、試合で予想外の点数をもらった時のような顔で叫んでしまった。
つか何語だそれ。

「ほら、ファンは今ゆづ王子に飢えてます。お城便り増刷もそうですが、一度国民の前にお姿をお見せになってみては？」

「……。」

Aからの助言(？)に、何故か言い返せなくなってくる。

そういうものなのか…。
そう言えば以前門番から、毎日誰かが俺に会わせろって訪ねて来て大変だって報告が上がってたな…。

あまり深く考えてなかったけど、職務に支障をきたすようじゃ、ちょっと考えなきゃだめか…。

いや、そもそもロスとやらに救済措置がいるのか？
これはあくまでも気持ちの持ちようで、各個人がなんとかするもんなんじゃ…。

「ゆづ何難しい顔してんの？」

「うーん…。」

なんだかまた課題が増えてしまった。





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