嘘と真実10

【最愛】4 ページ4

「結弦も免許取らなきゃね。」

「だな。これから時間あるし、頑張る。」

ラインで迎えのお願いをして、最後にAに赤ちゃんが出来たことを添えて送信する。

「早く11月が来ないかなぁ〜。もうちゃんと心臓もぴこぴこ動いてるんだよ。」

「…そうなんだ、ちょっとお腹触らして？」

「まだ何にもわからないよ(笑)」

いーじゃん。
俺はそっとAのお腹に手をあてた。

「…ぺったんこだな。」

でもここにちゃんといるんだ…俺達の赤ちゃんが。
やば、楽しみすぎる！

不意にiPhoneが震えた。
母さんからの返信だ。

開いてみると、おめでとうの言葉と、重い荷物を持たせちゃダメ！の一文が返ってきた。

もっと早く気づいてやれば良かったな。
カメラはただでさえ重いのに…。よく今まで何もなく過ごせたな。
運が良かったとしか言いようがない。

「結弦。パパになる心境は？」

「ちょう嬉しい！あ、A。改めて…おめでとう。」

やっぱり今はおめでとうかな。ありがとうは生まれた時までとっておこう。

「ありがとう。よーし、頑張って元気な赤ちゃん生むぞー！」

「よろしくお願いします(笑)」

程なくして、強化部長が仙台行きの手続きを終えて戻ってきた。
世界選手権から帰国するまでの間、何から何までお世話になってしまって、もはやAのお姉さんみたいだ。

男の俺じゃ、Aの身体の変化に気づけなかっただろう。
ただの寝不足と勘違いしたまま、世界選手権を終えて帰国していただろうな。

家に帰ったらまずゆっくり休んでから、二人でこれからのことを考えようと思った。





強化部長とは成田空港で別れて、俺達は仙台行きの搭乗ゲートをくぐって、中待合いの出発口で待つ。
回りには一般のお客さんもいるけど、そんなにたくさんじゃないから大丈夫だな。
一応隅の方に座って目立たないようにしておこう。

「帰ったら引退会見だね。」

「うん、１ヶ月以内にはするつもり。」

もう各方面には報告済みだから、最終的に連盟と日にちの調整をするだけだ。

「泣いちゃう？(笑)」

「泣かねーわ(笑) あ、出来ればAにも来て欲しいんだけど…。」

会場の一番後ろで見ていて欲しい。

「…いいよ。楽しみにしてる。なんなら報道陣に混じって撮影しようか(笑)」

「それはおかしいからやめろ。」

どこの世界に旦那の引退会見を撮る妻がいるんだ。

「いや、決めた。撮る！(笑)」

バレないように変装する！…ってバカか！

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