無垢な君は檻の中【utit】

◆ ページ16

彼と出会ったのは偶然だった。



どんな用事があったかは今となってはどうでもいいことなので忘れてしまったがとにかく駅の中を歩いていると前から男の人が歩いてきた。

そして私の少し前の所に来た辺りでズボンのポケットからひらり、とハンカチが地面へと落ちていった。

しかし彼は気づいていないのかそのまま私の横を通り過ぎた。慌ててハンカチを拾って「あの！」と声をかけた。


足を止めて振り返った彼を見て息を呑んだ。あまりにも綺麗だったから。

さっきは顔まではよく見ていなかったから気づかなかったけど何一つ汚れのない真っ白い雪のようなサラサラとした髪にルビーのような赤い瞳。彼の顔が相当整っているものだと理解するのにそう時間はかからなかった。


その姿はまるで天使だった。


ってしまった。見惚れてる場合じゃなかった。私は落し物です、と言って彼の前にハンカチを差し出した。


彼は私の顔をまじまじと見つめた後聞こえるか聞こえないかぐらいの声で「ありがとうございます…」と受け取った。心做しか耳が少し赤い気がした。


…とまぁ、これだけならただの日常として特に誰かに言うわけでもなく終わっていただろう。


そう、彼とはこれで終わりではなく、寧ろ始まりだったのだ。


それから彼と会うことが多くなった。しかも最初の時とは比べ物にならないぐらいハキハキとした声と眩しい笑顔で彼の方から話しかけてくるのだ。

駅だけじゃない、行きつけのカフェとか仕事場の近くとか。

最初は特に取り留めていなかったがだんだん彼を怪しいと思うようになった。


そして彼とまた“偶然”出会った。私のマンションの前で。

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