シークレットラヴァーズ【X/Y/Z】

◆ ページ34

　紙コップにお茶を移すために向けていた目線をこちらによこすと、ふわりと微笑んだ。彼の言う通り仮にも誘拐犯にお礼を言うのは如何なものかと一瞬脳裏を横切ったが、少なくともこれは彼の善意によるものだから言ったまでのことだ、何も不思議ではないと思うんだけど。


　
「イイコだねーちゃんめいちゃんあたりに見習ってほしいガチで〜」「いやそれここにめいちゃんいたらブチ切れ案件ですよそれは。『なるせにだけは言われたくねぇ！』つって」と軽口を叩き合うなるせさんとあらきさんの傍らで、「それに、」とまふまふさんは更に言葉を続けた。


　
　
「Aも二人と結構打ち解けられたみたいでよかった。顔から緊張が取れてる」

「え……」


　

思わず目を丸くした。自覚は薄々していたが、まさか第三者に言われるほどまでに気が緩んでいたとは。こんなところ、センラさんに見られていたらどう思われるだろうか。


いくら彼らに敵意が感じられないとはいえ、それは今だけの話かもしれない。もしかしたら敢えて敵意を隠して私を懐柔させ、ぽろっと口から情報が出るのを待っている、そういった可能性も十分にある。…いや、でも私はこれでも生きるか死ぬかの境目でずっと生きてきた。いくら彼らが強者揃いといえど、敵意や悪意を微塵も察知出来ないなんてことは＿＿＿＿けれどそれじゃあこの状況をなんて説明できる？それは＿＿＿＿

　


「…A？」

　
心配そうな表情を浮かべて私の名前を呼ぶまふまふさん。私はぎゅ、と膝の上で拳を握り締めて答えた。

　

「…いえ、なんでもないです」


　
(余計なことなんて、考えるな)


私はセンラさんの部下で、道具だ。彼の利になり得ることを最優先に動くべきだ。…それ以外のことなんて、考えなくていい。

今までもずっとそうだった。そしてそれはこれからも同じ。彼らの目的がなんにせよ、私は変わらずセンラさんのことだけを考えて行動すればいい。



全ては、恩人であるセンラさんのために。
　


「…」


そう意思を固める私を、なるせさんは何か言いたげな瞳で見つめた。

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