第9話:戻らない意識 ページ10
千秋side
一体どれだけの距離を走ったのだろう。
一体どれだけの時間が流れたのだろう。
「A!!」
半ばぶつかるかのように強引に扉を開け放つ。
…といっても病院の扉はスライド式なのだが。
「ああ、守沢くん」
主治医の先生が疲れただろうと俺に椅子を勧めてくれるが、今の俺にはそんなこと二の次だ。
「先生、Aは!?」
「…まだ、目を覚まさないんだ」
ベッドに横たわるAは青白い顔をより一層青くさせて眠っていた。
すっかり細くなってしまっている腕からは何本もの管が繋がっている。
「ナースコールが鳴ってすぐ駆けつけたんだけど、その時にはもう彼女の意識がなくてね。
すぐに出来る限りの治療をしたんだけど…意識だけが戻らないんだ」
「意識だけが戻らない？」
…どういうことだ？
「以前から言っているように、彼女の病気を治す術が今の我々にはない。
我々が今彼女にしてあげられるのは、少しでも病気の進行を遅らせるだけ…これは知っているね？」
「はい」
「彼女の脈は今安定している。他に異常もない。
彼女の言葉を借りるなら『調子が良い』状態なんだ。だから本来ならもう目を覚ましてもいいはずなんだよ。」
ならば何故…意識が戻らない？
Aを見れば顔色こそ悪いものの穏やかに眠っているようにすら見えた。
「私が思うに…Aちゃんの意識が戻らないのは、彼女自身の問題じゃないかな」
「…つまり、Aが生きることを諦めていると？」
俺の言葉に先生が押し黙る。
先生…そんな顔をしないでくれ。
「少し…二人にさせてください」
「わかった。何かあったらすぐに呼んでおくれ」
病室を後にする先生を見送り、俺は改めてAと向き合う。
青白い顔色。
華奢というより細すぎる腕。
今はたくさんの管が繋がれているが、それ以外にも目立つ注射痕。
「何故…こうなってしまった？」
そっと頬に手を当てる。
久しぶりに触れた肌はあの頃と変わらず柔らかいが…少し、冷たかった。
小さい頃は俺よりもずっと活発で、日が暮れるまで遊び回っていた。
俺の手を力強く握り、当たり前のように引っ張り、鼓舞し、導いてくれた。
「今ではすっかり逆になってしまったな」
そうなれればいいと思っていた。
でも望んでいたのは…こんな形ではなかった。
それでも…運命は残酷に俺から彼女を引き剥がしていく。
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ゆず - はじめまして！初めてコメントします。凄く素敵な話でした！！泣きました！更新頑張ってください、待ってます！ (2018年4月8日 16時) (
レス) id: 874af4f1e7 (このIDを非表示/違反報告)
黒月 恋 - いいお話です… 更新頑張ってください！ (2016年7月20日 22時) (レス) id: b9aef4f050 (このIDを非表示/違反報告)
燐火(プロフ) - ピノさん» ありがとうございます！流星隊本当に可愛くて仕方ないです！あの可愛さを出来る限り表現しようと思ってます(´△｀)楽しみにしていただいて本当感謝です！ (2015年9月19日 20時) (レス) id: bc8efcb7ec (このIDを非表示/違反報告)
ピノ - だめだニンニン可愛いすぎる。 流星隊大好きなのでこのような小説があって嬉しいです。更新頑張って下さい!!!! (2015年9月19日 20時) (レス) id: e3d4af0da7 (このIDを非表示/違反報告)
燐火(プロフ) - ぼた餅さん» わわわ！ありがとうございます！なんと勿体無いお言葉っ!!亀更新申し訳ない限りですが頑張らせていただきます(´△｀) (2015年9月13日 21時) (レス) id: bc8efcb7ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：燐火 | 作成日時：2015年8月20日 17時
