傷弾の鳥【出水公平】 (ページ12)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:27,666 hit

11話ページ12

出水side

「かー！ここまで来れば大丈夫だろ！」

『いずっ、み...、足はやい....。』

「お前狙撃手だからって体力なさすぎだろー。」

『うるさいバカ。』

「俺の頭は平均くらいだ。」

こんな戯れも久々な気がする。
最近、Aは居残り練習で自分が先に帰ることが多かった。

今日は久々に一緒に帰ろうかと待っていたらあの始末だ

『あと、そろそろ手離して。』

「あっ、わりい。」

離した後の手が冷気に晒される。
当たり前のことだと分かっていたが、Aの温もりが少し名残惜しく感じた。

『さっき、隊のことで私と組むって言ってたけど。あれって本気？』

「あー...まあ半分本気かな」

『半分？』

「Aが嫌なら、無理強いはしないし。せっかくだから一緒に上目指してーなって思っただけ。」

これは半分の本音だ、もう半分は本人には伝えない

俺がボーダーに入隊した理由。戦闘がカッコいいと思ったのはホントのことだが、もう一つはAを守りたいと思ったからだ。

あの、朝。誰にも弱音を吐かなかったAが俺の前で弱さを見せたとき、俺がこいつを守らなきゃって思った。

Aの性格だ。きっと一緒に住んでいる人にもあんまり頼っていないんだろう。

せめて、‘‘出水公平‘‘ という存在が ‘‘依田A‘‘
の支えになれるように。

‘‘出水公平‘‘ はそのためにボーダーに居る

『....私にチームメイトはいらないよ。』

Aが答えるまでに妙な間があった。
こいつが嘘をつく時の悪い癖だ。

「チームメイトいらないって...隊組まないとA級に上がれねーぞ。」

『私、結構バイトとかで忙しいから時間取れなくて隊の人に迷惑かけちゃうし！もっと1人で戦えるぐらい強くなったら考えてもいいかもしれないね。』

そういって、Aは普段通りの声で俺の前を歩き出す。

違う、この声が聞きたいんじゃない。

気づいた時には、Aの腕を掴んで引き寄せてた。

「皆で守ればいいじゃねーの。なんで狙撃手が1人で戦おうとしてんだよバカ」

『ははっ...、まさか出水にバカ呼ばわりされるなんて。』

「また大切なものを失うんじゃないかってきっと俺には分からねー恐怖があるのも知ってる。でも1人で戦う必要なんてねーだろ。守りたいものがあるなら一緒に守ってやる。

だからちゃんと頼れ。」

Aは目に薄い水膜を貼って俺を見た

『うん、ありがとう出水。』

俺が見たかった笑顔がそこにあった

ーーー