【夢短編集⑤】 (ページ10)

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kn…何処へでも(2) ページ10

式の予定時刻には、既に空には星が見え始めていて、ほうっと息を吐くと彼を思い出す白い煙がふわりと消えていく。

母に手を取られて歩む、引き摺るベールがとてつもなく重く感じる。

"もう一度、あなたに触れられたい…"

叶うはずもない願いが、白い息と共に夜風に消える。
例えここで偽りへ誓っても、私の愛は永遠にあなただけに捧げる。

"お前は俺と何処にでも行けるか"

問われた言葉に、キスで蓋をして隠した想い。
私が吐き出す言葉は、あなたの毒となってしまうから。
どんなに楽しく過ごした日々も、ここで離さなければあなたの枷となるから。

愛したあなたには、幸せになってほしいから。

…◆…

無感情に進む式は、いったい何の意味があるのだろう。
神は私に何を誓えと言うのだろう。
私の愛は、ここにはないというのに、あの人にだけ捧げたものなのに。

誓いの言葉も、有り難い台詞も聞きたくない。
私にとってそれは、ただの呪いの言葉だから。

「A」

「……え」

「行くぞ」

不意に手を取られ、そんな筈はと隣を見ると、待ち望んでいた人で。
祭壇の前から軽々と抱き上げられ、重く閉ざされた扉に向かって進む。

「待ちなさい!!」

混乱する意識に漸く届いたのは、私が大嫌いな父の罵声。

「シッマ…?」

「俺はあれをイエスと受け取ったで」

あの日、問われた言葉へ返したキスの意味…誓いのキス。

「…っ、どうして。どうして?シッマ…何で、分かったの」

あなたの腕に抱かれて、触れたかったあなたの頬に手を添える。
大好きなシッマの目が、口元が、笑う。

「好きやからや」

「シッマぁ…」

「悩む時点で好きやってん、離されへんかった時点でもう分かっててん、遅くなってすまんかったな」

涙で視界が歪み、嗚咽を堪えきれずに溢れる言葉。

「大好きっ、シッマが、大好きっ」

「おう、せやから聞いたんや」

不意に下されて、扉の前で呆気に取られた両親と親族に向き直る。

「俺と何処へでも行けるんやな?」

「…うん」

そして、もう離さないと手を繋ぐ。

「すいませんしたっ!!」

大きな声が教会内に響き渡る。
しんと静まり返る中、シッマの言葉が続く。

「俺がAさんを一生幸せにするんで、もう心配せんとって下さい!!」

あの日の誓いを、今こそ言葉にして吐き出す時。

「お父さん、お母さん。お世話になりました。私は…」

もう隠れない、逃げたりしない、私は決別する。

「彼と一生幸せに暮らします」

私の愛は彼だけに捧げる。