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tn…二人の証明(1) ページ7

泣き疲れて眠るAの頰を撫でる。
きつく握り締められた手が、俺より力がない筈なのに、痛い。

『トントンっ!!』

俺の家に来るなり、泣きついてきたAを俺はつい抱きしめて、迎え入れてしまった。
お互いの想いを口にすれば何かが壊れると思って、今まで避けて通ってきた。

親が決めた相手と結婚する、事情を知らんかったら何て古くて酷い話やって思う。
せやけど、人の想いは人それぞれやねん。
Aをこんな良い子に育てたご両親が選んだ人やから、俺は仕方ないと踏ん切りつけてしまった。
つけようとした。

「できひんかってんなぁ…」

Aの静かな寝息だけが響くリビングで、一人ぼやく。
突き放せば良かったんか、無視すれば良かったんか、何がこいつに関わる上で正解なんか分からんかった。

「…だよ」

「ん?どないした?」

「やだ……トントン」

涙を流しながら夢の中でも俺の名前を呼んで助けを求めるA。
ソファの上で、俺の上着を抱きしめて眠るこいつを、俺はこのままにしときたい。

「俺かて嫌やで…A」

このまま閉じ込めておけたらと、こいつを思ったらここに置いといてやるんが一番やないんかと、普段の自分じゃ考えへんことを何度も巡らせる。

正しいのは、俺がここからAを帰すこと。
ほんまにそうか?
世間的に見たら親に従うんが当然やろか、いやそもそも結婚って本人らが合意した上でするもんちゃうんか。



「A……A」

「……ん」

俺は、こいつの話を聞いてやったか?

「なぁ、A?ほんまの事教えてや?」

「ん、なぁに?」

泣き腫らした目で俺を見つめるAの、本当の気持ちを俺は知らん。

「どうしたい?」

「……ぇ」

「なぁ、A」

そうや、名前はなくても関係はあった。
言葉にせんくても、気持ちは通わせてきた俺らやから、俺やから分かること。

「A。もう、お利口さんでおらんでもええんやで?」

「ーっ」

ちゃーんと親の言う事聞いて育ってきたんやろな。
約束、一度も破ったことあらへんし、嘘をついたこともない。
そんなお前やから、そんなお前のそばに、誰よりもお前の心の近くにおった俺やから分かるよ。

「我儘、言うてええんやで?」

「…っ、トントンっ」

「ん〜?なんや、言うてみ?俺がおるやんか」

「うっ……あのね?…あの、ね?」

まるで子どもみたいに泣きじゃくるAを抱きしめて、小さく震える声を、俺は聞き逃さへんかった。

「そうか、偉かったな。よお頑張ったな、A」

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作者名:芝谷 | 作成日時:2020年2月1日 16時

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