【夢短編集⑤】 (ページ26)

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os…after story × Valentine ページ26

腕を組んでズラリと並ぶドレスを睨みつける。

「眉間にしわ寄ってんで?」

「ん～…」

「あははっ、まだ1回目やから気になるの着たらええやん」

頭を軽く撫でて、オスマンは通路の反対側へ消えてしまう。
私はその後をちょこちょこついて行く。

「何でよ、あっち見てきたらええやん」

「……」

「無言の訴えはやめなさい」

服の端っこを掴んで訴えても分かってくれない。
違うな、ちゃんと言わなきゃいけないんだ。

「一緒に選びたいの」

「ははっ、可愛えな。じゃあ色から決めへん?」

ここは式場の中の衣装室、私達の他にもカップルはいて、当然のように手を繋いでいたり腕を組んでいたりする。
オスマンも私と手を繋いでくれて、二人でドレスが並ぶ通路の間を歩く。

「緑!」

「ピンクとかやなくて?」

「緑がいい、深い色の」

「それ大人っぽくならへん?もっとさー、明るい色で」

「深い緑なの!」

「拘り強ない?」

だって、好きな人の色が良いもん。
それくらい伝われ～、と緑色のドレスに手を伸ばすオスマンの後ろから念じてみる。

「可愛いですね、新婦様」

見られてた、恥ずかしい。

「そうでしょ?」

さらっと言うもん、そういう事。
得意気な顔をして私を見て微笑むオスマンが、これどう?と見せてくれる。

「わっ、それ!その色好き!!」

「ほんま可愛いな～、Aちゃんは。俺の色探してたん?」

「なっ、内緒!!」

はいはい、と頭を撫でるオスマンが見守る中、私は初めて好きな人の手で選ばれたドレスに袖を通す。

…◆…

「楽しかった～!」

「元気やな～、俺はなんか緊張したわ」

「ありがとうね、選ぶの一緒にきてくれて」

「当たり前やろ?」

オスマンの手が好き、笑顔が好き、優しい声が好き。
あの日繋いだ手は、私達をゆっくりと幸せに導いて行く。

「お疲れの体にどうぞ、ハッピーバレンタイン!」

紙袋から小箱を取り出して、中を開けて見せる。

「トリュフや!甘そうやな～っ」

一粒手に取って口の中に放り込む。
まるで子どもみたいな可愛い笑顔で味わうオスマンを見て、ふと笑みが溢れる。

「あれ?もう食べないの?」

「ん～?美味しい食べ方したいやん」

「…紅茶?」

式場を後にしながら歩く歩道、ぐっと腰を引き寄せられて耳元で低く、甘く囁かれる。

「口移しで食べさせて」

思わず耳を両手で塞いで、口をぱくぱくとさせて飄々と前を歩くオスマンを見る。

「…えっち!!」

「ふふっ、それが一番美味しいんやも～んっ」