【夢短編集⑤】 (ページ20)

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em…紳士は淑女を守り誘う(2) ページ20

式当日、私はある決心を胸に抱き家族と、そして許嫁に悟られないよう震えを抑える。
何度も泣いた、何度も叫んだ、その都度自分に言い聞かせ続けた。
けれど彼と出会った事で、それまで築いてきた私の何かに亀裂が入った。

「新婦ご両親様、お話が…」

それは闇に光が差すように、分厚い雲を割って差し込む陽光のように、私を照らしてくれた。

「一度、教会の中へ…」

あなたはたまに隠そうとするけれど、私はそんな部分も含めてあなたを愛おしいと思った。
あなたのそばにいたいと、隣に立つのに相応しい女性でいたいと願うようになった。

「君!!何をしている!!」

だから、私はこれを承知であの日あなたに全てを話した。
きっと、あなたなら救ってくれると。

「無礼な真似をご容赦下さい、ですが私にも譲れないものがありまして」

「……エミさん」

あなたと私は、深いところで通じ合っていると信じて止まなかった。

「ご両親は、一度でも彼女の話をお聞きになられたでしょうか」

あなたのその、深く貫く声が好き。

「Aさんを素敵な女性に育てられた聡明で怜悧なご両親には、きっとそれ相応の何かがあって、彼のような思慮深い男性を選ばれたのでしょう」

あなたのその瞳に、捉われていたい。

「それは本当に彼女のためですか?本当に彼女が幸せだと感じられましたか?本当に彼女は、心から笑えていますか?彼女の一番そばにいて、彼女の話を聞いて悟る事ができるご両親が、彼女の事を愛し慈しみ思い遣る心があるのなら」

あなたのその手に、ずっと誘われていたい。

「もう一度、Aさんの本当の気持ちを聞いてあげて下さい。そして神の前だからこそ、あなた方の気持ちに嘘偽りがない事を証明して下さい」

エミさんの雰囲気に気圧されたのか、私を取り囲んでいた両親達が道を開ける。
それはまるで、空にかかる天使の梯子のように見えた。

金色のバージンロードを、十字架の前に立つあなたの元へとゆっくり歩む。

「私は、エミさんが好きです」

「私も、Aさんが好きです」

「私は、エミさんのそばにいたいです」

「私も、Aさんのそばにいたいです」

「私は…」

「俺は…」

階段の手前であなたに手を差し伸べられる。
私はその手に手を重ね、あなたを見上げて微笑む。
音楽も、神父様の有難い言葉もない。
けれど、十字架の窓から陽光が祝福するように、私たちを照らす。

「「あなたを永久に愛する事を、神に誓います」」

もう誰も、私たちを止められない。