zm…二人だからできること(2) ページ18
式が始まるまであと少し。
ここまで来たら逃げも隠れもできない、だけど一人にしてほしいと両親やスタッフさんにも外へ出てもらった。
「…はぁ」
溜息さえ震える、椅子に座っていると落ち着かないので、絨毯の上に座り込んで壁に凭れる。
泣いちゃダメ、暗い顔もダメ、無愛想な顔もダメ。
横を見ると鏡があって、どう頑張って微笑んでみても引きつっている。
頰を抓って引っ張って、揉んで、どうしてみても笑えない。
「……困ったなぁ」
ゾムといると、自然と笑えるのにな。
━━ コツン…━━
窓に何かが当たっているような小さな音に、ふと気づく。
壁伝いに立ち上がり、音のする方へ視線を向けると、思わず声が出てしまった。
「ゾム!!」
『しーっ 』
「あっ……どうして、ここに?」
窓に駆け寄り硝子越しに小さく声を掛ける。
ゾムはぱくぱくと口を開いて、何かを言っている。
『あ け て』
「窓っ!え…どうやって、これ……」
手袋を脱ぎ捨てて鍵を探す。
すると部屋の外からノックの音がして、そろそろ時間だという事が告げられる。
慌てながら急いで見つけた鍵を外し、窓を開けるとゾムが手を伸ばしてきた。
「逃げよ」
「…えっ?」
「A、俺と逃げよう」
私がいる控室と、ゾムがいる中庭は少しだけ高低差がある。
私が見下ろす形で、ゾムは笑顔で両手を広げて待ってくれている。
「なあ、A。無理じゃないんよ、まだどうにでもできんねん」
「…ダメだよ」
もう時間はない、あの日ダメだと言い聞かせた気持ちが揺れる。
なのに今、大好きなあなたにそんな事言われたら、頼ってしまいたくなる。
「ダメって、一人で決めて泣かんで?」
「だって…」
ずっと、そう決められて生きてきたから。
ずっと、そうやって気持ちを殺してきたから。
「俺がおるやん。Aに無理なら、俺が変えてみせるって」
そう言って悪戯っ子みたいな笑顔を見せるゾムに、私は何度笑顔にされてきただろう。
「それくらい、大好きやねん」
あなたの手を取り、ここから抜け出したら、また笑えるだろうか。
「A、俺に奪われてくれへん?」
くくく、と喉を鳴らして笑うゾムの手を取り、私は窓枠に足を掛ける。
「…受け止めてくれる?」
「当たり前やんっ」
心から大好きなあなたの腕に飛び込み、抱きしめられる。
「A、手ぇ離さんとってな?」
「うんっ」
まるで映画のようなワンシーン。
ゾムと手を繋いで走る私は、今までにないくらいの笑顔だと分かる。
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作者名:芝谷 | 作成日時:2020年2月1日 16時