【夢短編集⑩】 (ページ9)

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tn…June bride.1 ページ9

疲れた時、浮かぶのはAの顔で。
何か嬉しいことがあった時、すぐに知らせたいのは親からAに。
ゆっくりと、俺の中で大切な人の順番が変わっていった。

確かに親は大切。せやけどこれから先、誰かと共に永久に過ごすってなったらA以外考えられへんくなった。

「ただいまぁ…て、そっか」

毎週末、俺の家に泊まりに来て料理を作って待ってくれているA。
今日は実家に帰るって言うてたな。

いつの間にか、毎週末は必ず二人で過ごすってのが自分の中で当然の事として決まっとって、自然と出た台詞に自嘲気味に笑う。

『おかえりなさい、トントン』

俺が食べる姿が好きやからって、いつもたくさんのメニューを用意してくれる。
太るからって言うても、そんなの気にならないからとあいつは笑う。
正直、こんな俺のどこがええんやろと思うこともあるけど、あいつに惚れてもらったことはいつまでも誇れるやろう。

『トントン、朝だよ。起きて…』

いつやったか、まだ毎週末泊まりに来る約束ができる前。
合鍵を使って起こしに来てもらったことがある。
大好きな彼女が、朝起こしてくれることの幸せを、俺は初めて知った。

ハロウィンやクリスマス、バレンタイン…特別なイベントを特別な誰かと過ごすことも、俺にとっては初めてで。
全部の初めてを、Aだけにしたいと思った。

それは嬉しい方だけじゃなかったな。
付き合っていけば、色んなことでぶつかりもする。
その度に二人で遅くまで話し合って、泣いてでも良いから俺に本音をぶつけてほしかった。
そして俺は、どんな事でもAの全てを受け入れていこうと決めた。

『なんぼ離れとってもそばにおるから』

その言葉に偽りも強がりもなく、心からそう思ったこと。

「けど、いつまでも離れてはおられんな」

いつからか、もっとずっとそばに置いて…いや、隣にいてほしいと思うようになった。
それは日増しに強くなっていって、たまにそれが嫉妬として表に出たこともある。

「…決心せなあかんよなぁ」

いつまでも、このままじゃおれん。
いつまでも、この緩やかな関係は続けてはおられん。

俺が、強く望むように。
お前も、強く望んでくれとるやろうか。

テレビを観れば、サプライズ企画の番組が流れとって。
ふと、背中を押された気がした。

スマホを手に取り、初めて検索する言葉。
見れば見るほど悩みは増えたけど、これは楽しい悩みやと、あいつの笑顔を思い浮かべながら、一人の夜は更けていった。