【夢短編集⑩】 (ページ7)

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ps…June bride.1 ページ7

自分でも思う、愛情表現が下手くそだと。
ただそれは仏頂面やとか、いつも不機嫌そうとかそんなんと違くて、喜怒哀楽の"喜楽"しか表には出されへんから。
お気楽な俺に似合いやけど、そのままじゃあかんなと度々思う。
それはこの前、彼女にも言われた。

『しんぺいさんって何考えてるか全然分かんない』

分からせないようにしてるからな、なんてかっこつけて言えたらええんやけどな～。
いやさ、俺より年下な彼女に必死すぎる男の姿なんか見せたくないわけよ。
ほんまは内心ドキドキしてんねんけどな、昔ほどそれを"上手く"見せる方法なんか失くしてもうて、捻くれた大人の考えが"下手くそ"に見えるようになってもうた。

いつかのエイプリルフール、可愛い嘘をつかれた。

『しんぺいさんなんかきらいっ』

あれはあかんかった、嘘やと分かりつつもかなり焦った。
寂しい思いも、悲しい思いもさせてへんつもりやったけど、俺はまた何か下手をしたんかと。
また笑って好きって言ってほしくて、若い頃に戻ったみたいにAちゃんに甘いキスをした。

『しんぺいさん…』

思えば、俺はあの子に何回ちゃんと好きって言ったんやろ。
あの子が俺に向けて言ってくれるほど、俺は返せてない気がする。

仲間内で遊びに出かけた日、密かに良いなと思っとったAちゃんの手を引いて抜け出した。
お互い、同じ気持ちやと思ったから。
せやから、明確な言葉は俺からは言わんかった気がする。

ただこの子を俺のものにしたい、必死になった結果だった。

それが原因で喧嘩して、初めて泣かしてもうて、初めて失うかもしれんという焦りと不安に襲われて、初めて愛が溢れた"哀"を見せた。

「あかん、イライラしてきた…」

深夜、ボールペンを放り投げ床に仰向けになって、"怒"と向き合う。

「どんだけ歳食っとっても気の利いた言葉一つ書き出せんとか、しょーもなっ」

大切なあの子に向けた、大切な言葉をどうやって伝えようか、悩みに悩んで何時間?
気づけばAちゃんとの思い出とか書き出してもうてるし。

「Aちゃんはたくさん言うてくれんのに、わしは一個も思いつかん…ださっ」

愛情表現が下手くそなおっさんの、特別な彼女に向けた特別な言葉。
大切だからこそ、今まで伝えきれへんかった分を伝えたい。
せやけど、伝えたい気持ちを書けばメモは二枚三枚と埋まっていく。

「…酒……いや、やめとくか」

もう一度座り直して、ペンを取る。
一生忘れられへんくらい、心に刻める言葉を。