【夢短編集⑩】 (ページ5)

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ht…June bride.1 ページ5

目を覚ますと、俺の手を握ったまま眠るAちゃんがいた。
彼女を起こさないように、ゆっくりと体を起こす。

「Aちゃん、こっち来て寝な?」

「ん……ひとらん、もう大丈夫?」

「大丈夫だよ、看病してくれたんだね。ありがとう」

仕事に追われ過ぎて、自分が体調が悪いのを後回しにしたせいでAちゃんの目の前で倒れてしまった。
倒れると言ってもそのままの意味じゃなくて、高熱を出して朝起き上がれなかった。

「無理しないでって言ったのに…」

「そうだね、ごめん」

今までは自分だけのために頑張れば良かった。
けどいつからだろう、この子のためにもっと頑張ろうと思い始めたのは。

「そんな顔しないの」

余程心配をかけたんだろうな、眉根を寄せて今にも泣き出しそうな彼女を抱きしめる。

「ん…ひとらんが大事だから言ってるの」

「うん、分かってるよ」

分かってる、だけど今頑張らないと…決めた日のために。
この忙しさも、あと少しで終わるから。
ごめんね、心配かけて。でも、これも大切な君のためなんだよ。

「ねぇ、Aちゃん…俺といて幸せ?」

「幸せだよ」

ふふっ、と小さく笑って俺の胸に頬を寄せるAちゃんの頭を撫でる。

「ひとらんは?」

「すっげえ、幸せだよ」

迷わず言える、そしてこれからも君といれば幸せが続くと。
仕事人間だった俺に、安らぎをくれたのは他の誰でもない、Aちゃんだけだから。

「髪、伸びたね」

「そうだね、あの時…ひとらん凄くびっくりしてたね」

突然、髪を切ったAちゃんの写メに驚いて会社でひっくり返ったのが、つい最近に思える。
さらさらと伸びた髪を指に通して遊ぶ。

「あの時はまだ、別々の家だったね」

「だね～、クリスマスの日に仕事があるのに会いに行ったじゃん?」

「あったね」

「今はさ、仕事なんか気にせずにすぐ抱きしめられんだもんね。幸せだよ」

離れていても、同じ気持ちだったことが嬉しかった。
そして近くにいても、それは変わんなくて。
ただ、変わることを恐れて中々踏み出せなかったことが一つある。

「Aちゃん…」

「…なぁに?」

眠たげな声に、思わず笑みが溢れる。

「ううん、何でもないよ」

「ん…ひとらん…」

「ん?」

「…無理、しないで……ね」

「うん、約束する」

俺の胸の上で眠る彼女を抱きしめて、心地良い眠りにつく。
あともう少しだけ、待ってね。

もうすぐ、君の夢を叶えてあげられるから。