【夢短編集⑩】 (ページ28)

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gr…Don't touch me ページ28

「ねぇ、グルッペン」

「あ?」

「今日一日、私に触ったらダメな日ね」

「……は?」

何をまた変な遊びをと思った。
自信満々に言うAに、俺ははいはいと手を振る。

「ダメだからね?」

「どうせお前から触りたくなるやつだろ、結果は見えてんだよ」

◆

結果、触るなと言われたら触りたくなる謎の衝動に駆られているわけだが、ここで折れようもんならAが踏ん反り返って誇らしげに笑うだろう。

それは許せん。

ので、パソコンに向き合い作業に集中すれど、頭の中では"ダメだからね?"がぐるぐる。

「A」

「はあいっ」

珈琲を、と頼もうとして顔をAのいるであろう方へ向けると、目の前に顔があった。

「……珈琲」

「珈琲?淹れてくる?」

「頼む」

「コップちょうだい?」

言われて空になったコップを手渡そうとした時、いつもならカップを掴もうとするのに掌を出された。

「…お前なぁ」

「ふふっ、触っちゃダメだよ?」

「分かったから、頼む」

ぽんっと乗せる、当然ながら指先は触れ合わない。
いつもなら、あの細い指が俺の手に触れたがるのに、今日はそれをしないしさせない。

「はい、ここ置いとくね?」

熱いから、と机の上に置かれるマグカップ。
マウスを持つ右手に近くて、今取れば触れられるのに、言われた言葉に負けるのが嫌で目で見送ってしまう。

「……ダメだよ?」

不適に笑うAが楽しそうで、その表情で悟った。

「えっ、ちょっ……何」

椅子から立ち上がってAの目の前に立ち、一歩ずつ距離を詰めて壁に追いやる。
壁に背をつけたAの顔横に、退路を防ぐように両手を付けば、触れずとも俺の手の内にある困惑した顔。

「……ダメ、だよ?」

「あぁ、分かってる」

触れられない事に戸惑う俺の姿を見ることが、既にAの楽しみになっていて、その状況を作ることこそが俺の負け。

「…触れなきゃいいんだろ?」

「……でも、近いよ」

「あ''?言われた通り、触れてないだろうが」

だったら、こいつが触れたくなるようにすれば俺の勝ち。

「何も、ルールは破ってないが?」

俺の影に覆われる顔に、頬を寄せるように顔を近づけて耳元で囁く。

「触れるなよ?」

「…っ、ずるいっ」

「何が」

鼻先が触れ合いそうな距離、互いの前髪が重なり合い、呼気に揺れる。
はくはくと小さく動く唇が、もどかしそうにする。

「……グルッペン」

僅かに上を向く顎、熱を帯びた瞳。

「負けを認めるか?」

勝負で俺に勝てると思うなよ?