【夢短編集⑩】 (ページ14)

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ut…June bride.2 ページ14

「なあ、A。水族館に行かへん?」

「水族館?いいね、行こう!」

二人で水族館なんて、いつぶりだろう。
片手で数えられるくらいしか、行ったことがない気がする。

「今日はちょっと遠くまで行こうや。あそこの水族館、行ったことないやろ?」

「私はないかな…」

聞こうとして、ふと黙る。
分かってる、お互い彼氏彼女なんて初めてじゃないんだし。
ダメだと思いつつ、考えてしまう。

「俺もないねん」

「ほんと～?だったらちょっと嬉しいなっ」

分かってる、こんな言い方は彼を傷つけるって。
でも分かってほしい、あなたへの気持ちに隠し事はしたくない。
してしまえば、二人の仲に不和が生まれてしまうから。

「なんや、ちょっとって!素直に、きゃーっうつ君と行けて嬉しいなっ!きゃぴっ、てしとけ」

いつの間にかこうやって笑って流すことが、二人の間で当たり前になっていった。
お互いが、相手に愛想を尽かされていないかという駆け引き。
それでも、私達なりの愛情確認のようでいて、隠し事のない関係は心地良くもあった。

「見て!イルカ、可愛いねっ」

「お前の方が100倍可愛いで」

「あら、嬉しいっ」

何度も泣きながらぶつかって、それ以上にたくさん笑って積み重ねてきた二人の関係。

「あ、うつ!ペンギンいるよ!」

色んな顔をお互いに見せ合って、確かに築いてきた信頼は深く強く、滅多なことでは壊れる事はないと自信を持って言える。

「…A」

だから、あなたがさっきから何かを話したそうにしているのは分かってる。
大丈夫、また笑って受け止めるから。

「大事な話があんねん」

出発したのは昼過ぎで、遠く離れたこの水族館に着いたのは閉館の2時間前だった。
既に周りの人は帰り始めていて、ペンギンゾーンの前には私とうつの二人になる。

「ペンギンってさ、夫婦になると一生その相手と添い遂げるって知っとった?」

「…そうなの?」

「せやで?まあ一生涯のパートナーを見つけるまで色々あるらしいけど、決まればその絆は固くて強いんやと」

一歩、後ろに下がりながらうつは片膝をつく。

「え…何…」

「俺にとってその一生涯のパートナーは、Aやと思う」

差し出されるのは開かれた小さな箱と、その上に乗る指輪。

「海よりも広く深く、お前を愛してる」

一歩ずつ、うつに近づき手を伸ばす。

「A、俺と夫婦になって一生を添い遂げてくれへんか?」

答えはイエスしかなくて、嬉し涙を溢れさせる私を見て、彼も嬉し涙を一粒だけ溢した。