tn…ほろ苦く甘い(後編) ページ28
終わりかけたものが繋がったような気がして、だけど期待するのは我儘な気がする。
「上がり?」
私は黙って頷き、トントンの後ろをついて行く。
俯いたまま玄関の扉を開けて中に入ると、両手で頬を覆われ上を向かされると深い口付けをされた。
私はその手に自分の手を重ねて、それに何度も応じる。
"大好き"、お互いがそう言っているように。
腰を抱き寄せられて、私はトントンの首にぶら下がるように体を任せ、踵が浮き強く抱きしめられる。
気づけば涙がまた零れていて、それをトントンが手で拭う。
一拍置く事なく交わし合い、求め合う。
「…っ、トントン」
「好きやで、A。わかるか?めっちゃ好きなん」
「分かるよ、分かる。私のも、分かる?」
「泣くほどやろ?分かってんで?」
一度離れてもまた触れ合う唇。
お互いの気持ちを再確認するように、普段なかなか言えない言葉もするすると出てくる。
「トントンが好き、大好きっ」
「分かったから、もう泣かんでええよ」
そこが玄関であることを忘れて暫く抱き合っていた私達は、ようやく靴を脱いで二人だけの大切な夜を過ごした。
「さて、本題です」
「はい」
床にきちんとスマホを置き、私とトントンはそれを挟むようにして向かい合う。
着替えを持ってきてなかった私は、トントンのシャツを借りた。
「まあ、どうやってこいつを追っ払うかやけど。どうやったん、状況は」
「かなり酔ってて、後ろからスマホ取り上げられて返してくれなくて。勝手にふるふるされたの」
「誰も止めへんかったん?」
「笑ってたり、女の子はやめなよって怒ってくれた」
「ほーん、でまあ。内容見る限り酔ってはおるんやろうけど、この先が厄介やな」
「うん…」
「Aはどうしたい?」
胡座をかいた膝の上に、肘をついて私を見るトントン。
ちゃんと向き合ってくれてる、私もちゃんと答えなきゃ。
「職場の人だから、穏便に…と」
「せやろな」
頭を撫でられて手を軽く引っ張られると、膝の上に乗せられて後ろから抱きしめられた。
うーん、と二人で悩む。
「俺もこんなん初めてやしなぁ…言うてやりたいけど角が立つやろし」
「…あ!!あのね?」
私の作戦を話すと、トントンは恥ずかしそうだったけどある条件で許してくれた。
週明けの仕事の日。
「…Aさん、あのアイコンの人ってさ」
「彼氏だよ?」
LINEのアイコンを、豚さんのぬいぐるみで顔を隠したトントンとのツーショットにした。
同僚のLINEは来なくなった。
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作者名：芝谷
| 作成日時：2019年11月6日 19時
