クロスロード (ページ9)

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青ページ9

［S.Hirano side］

── 紫耀ごめん

── そばにいれなくて、ごめん

「っA！……、」

夢、か。

あれからもういくつもの朝と夜を越えて、たくさんの時間が流れて、自分の立場も変わって。
なのにどうしてだろう。こんなにずっと忘れずに覚えている。あの日掴みきれなかった君を、ずっと。

俺の心のようにカラカラに乾いた喉を潤わせるために水を飲みにベッドを出るともう目が覚めてしまった。
空にはまだ太陽がのぼらない青の時間。俺は車を走らせた。

～♪

何気ない日常の中にいつだって彼女の存在があった。
よくよく考えれば一緒に過ごした時間なんてほんの僅かであるし、Jr.にとって突然の別れなんてそうそう珍しいものではない。
それなのに、なかったことにするには思い出が多すぎて、過去の彼女の面影だけを頼りに生きていくには思い出が少なすぎる。

頭をリセットさせたくて車を走らせたはずなのに、嫌というほどに頭の中はAのことばかりだ。
途方に暮れてしまって路肩に車を寄せたとき、車のスピーカーから聞きたくて仕方がなかった声が聞こえてくる。

～♪

とある映画でバンドのヴォーカル役をやった彼女に頼み込んで手に入れた音源。

『やっぱり歌が好きだなぁ』なんて、俺がその歌声を褒めると少しだけ照れながら言っていた彼女の笑顔が浮かんでくる。

俺はきっと、そんな彼女から大好きな歌も、ダンスも、奪ってしまった。

今この曲が流れてくるのは、あまりにずるすぎる。

「………何やってんだ、おれ」

自分の意思とは関係のないところで涙が溢れて、ようやく気づいたんだ。
あぁ、俺、彼女に恋してたんだな。って。

どうしても手放したくないものだった。君がくれた時間、見せてくれた景色、その声、その手のひら、温度、こころ。

あんなにも聴き慣れたはずの歌声が、恋だとわかった瞬間から聴くたびに泣きたくなった。

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