クロスロード (ページ8)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:28,138 hit

こころページ8

［R.Yamada side］

「うわー！めっちゃうまいっすね！」

「ほら焼けてるよ、食え食え」

こうやってふたりきり面と向かって話すのは初めてだっていうのに、気まずい雰囲気が全くないのは目の前のこいつの人柄のせいなのだろう。

平野はいちいちオーバーなリアクションで美味さを表現してくれるから、少し緊張していた自分が馬鹿馬鹿しくなって気づけば笑っていた。

しばらく食べてお互いの近況などを話していると、急に平野が真面目な顔をして俺をみた。

「山田くん…今日話があるから飯誘ってくれたんですよね？」

「……あぁ」

「Aのこと、ですよね？」

そう、俺は平野に謝らなきゃいけない。

平野たちよりもずっと前から一緒にいたというのにAを守ってやれなかったこと。
彼らに何も言わずにいなくなったAを責めることもできず、悲しむことも寂しいと言うこともできない状況を作ってしまったこと。

「……Aはなんて言ってましたか？」

「……」

「聞かせてください。お願いします」

「…ファンの子を泣かせた。お前らにも怖い顔させたって。自分だけの傷なら乗り越えられるけど今回はキツイって。」

「……」

「大丈夫だとか、何とかなるとか、言ってあげられなかった。ごめん」

「………よかった」

「え？」

「Aがひとりきりじゃなくてよかった。山田くんにちゃんとツライって言えててよかった。」

「…平野、」

「Aのそばにいてくれて、ありがとうございました。」

＂本当は俺がそばにいてやりたかったっすけど＂
そう言って悲しそうに笑う平野がひどく大人に見えた。

「…平野は、大丈夫か？」

「……俺にできることは、Aが隣にいた頃と違ってしまった今日を生きることなんで」

「……」

「立ち止まってなんかいられないんです。自分のためにも、Aのためにも、前に進まないと。」

Aが10年以上一緒にいる俺にも見せなかった顔を平野には見せていた理由がわかった気がした。

お互いに心を預けあってきたふたりだから、きっと今はまだ心にポッカリと穴が空いているのかもしれない。
でもふいに見せる平野の表情や言葉たちにAを感じてしまうから、俺も、そしてきっと平野も、Aを忘れることなくこれからも生きていくのだろう。

: