或る招宴 肆 ページ16
「此方の手違いで混乱させてしまい、申し訳ないです。」
そう云ってぺこりと礼をするアーサーに合わせ、敦も「すみません、」と頭を下げる。
「いえいえ、大したことでは有りませんよ。お気になさらないで下さい。」
依頼主ーー小林氏は、和やかに笑う。前回の敦の非礼の件と云い今回の事と云い、依頼主という立場の人間ならば文句の一つや二つ口に出しても可笑しくは無いだろうに、彼は笑って済ませてしまった。本当に、良い人だ。
「では、行きましょうか。あちらに車を待たせておりますので。」
小林氏にすすめられるまま、敦達は車に乗り込む。敦とアーサーに後部座席に座るように云い、小林氏自身は助手席に座る。流石に申し訳なくて断ろうとしたものの、「お二人には大変なお仕事を依頼しておりますから。それに、実は私、助手席の方が好きなんです。」と和やかな儘に云われてしまっては如何しようもない。
ーーとまあそんな彼是の後、漸く発車した。
窓の外を流れ行く景色は、矢張り何処か横浜とは違う。横浜は、もっと、こう……。
「……あれ?」
思わず呟いた声を拾ったアーサーが「如何かしたですか、敦。」と問う。「何でもないです。」と思わず返したが、本当に何でもなかった訳ではない。
気付いたのだ。敦は、自分が『如何やって此の街に来たのか』が分からないということに。
横浜の待ち合わせ場所に居た。其処で電話が鳴り、其れからアーサーを追って歩いて行った。此処までは確かに記憶している。だのに、気付いたら此処に来てしまって居た。どんな道を通って、どのように歩いて来たか、敦は殆ど覚えていなかった。
(そう云えば前回も……)
そう。前回此の街を訪れた時も、敦は社を出てからの記憶が曖昧だ。アーサーを追って歩いていたことは確かなのだが、気付けば此の街に居た。
(然もあの時の僕は、知らない街のはずなのに、『東都』だと云って居た。どうして?)
車の心地よい振動を感じつつ、然し敦は考える事に没頭して居た。あの時は、確か……
(そうだ。確かあの時、何処かから声が聞こえたような気がしたんだ。)
其れは、今冷静に考えてみれば、まるで洗脳のようなものだった。「此処が『東都』なんだ」という“常識”を植え付けるような、そんな声。
「ーーし、敦!」
名を呼ばれ、はっと顔を上げる。と、アーサーが奇妙そうに此方を見ていた。
「着いたですよ。」
いつの間にか、窓の向こうには立派な建物が建っていた。
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美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました! (12月24日 19時) (レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 大好きな作品です…! (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え!?!?!?!更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ!!!!更新待ってます!!!!!! (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菫色 | 作成日時:2018年4月29日 20時